守りと攻めの両面から経営を監督し、
TEPCOグループの持続的成長を支えます

東京電力ホールディングス株式会社 取締役会長 小林 喜光

<取締役会長に期待される役割>

二つの役割を意識し経営に携わる

TEPCOグループは、厳しい事業環境の中で、第四次総合特別事業計画に掲げる年間4,500億円規模の利益創出に向け、小売事業による収益拡大はもとより、事業領域の拡大に向け「カーボンニュートラル」や「防災」を軸に取り組んでいるところです。
こうした中、私は、社外取締役の立場ではありますが、取締役会長、取締役会議長、指名委員会の委員長、報酬委員会および監査委員会の委員として執行側を監督する一方、執行側の会議にも出席し、意見を述べるなど、他企業ではあまり例を見ない形で経営に携わっています。
これは、TEPCOグループの重要な使命である電力の安定供給の維持と、福島第一原子力発電所の廃炉を安全かつ着実に進め、同時に福島の復興を進めるといった「福島への責任の貫徹」など、重い責任に対する執行側の取り組み状況を随時、執行側に近い立場で監督する必要があること。もう一つは、特にカーボンニュートラル社会の実現に向け、相対的にCO₂排出量の多いエネルギー業界にいるTEPCOグループへの責任と期待が大きい中で、執行側と一体となって取り組みを進めていく必要があること。この二つの役割を期待されていることが背景にあると考えています。

<TEPCOグループの持続的成長に向けて>

「守り」と「攻め」の両輪を回す

取締役会長に就任し2年が経過しましたが、この間、執行側の会議に出席するだけでなく、現場を訪問し、設備見学や社員の皆さんと意見交換をさせていただきました。こうした活動を通じ、TEPCOグループが持続的に成長するためには、「守りの経営」と「攻めの経営」の両輪を回していく必要があるのではないかと感じています。
私自身、ALPS処理水への対応、柏崎刈羽原子力発電所7号機の再稼働、小売事業の収支改善、そして何といっても電力の安定供給といった社会的責任に関する足元の経営課題への対応を「守りの経営」、他方、事業域の拡大、例えば、他企業とのアライアンスや新たな事業の創出等により中長期的に利益を生み出すための取り組みを「攻めの経営」に整理して考えています。
この「守りの経営」と「攻めの経営」をそれぞれ適切に対応するために意識しなければならない重要なこと
の一つとして、リスクへの向き合い方があると考えています。つまり、守りの経営では、安全と品質の確保が極めて重要であり、これを基盤として、お客さまにご安心、ご満足いただくことが求められます。そのため、法令やルール通りに業務を進める、ミスをしない、あるいは、トラブル発生時には影響を最小限に抑えることに加え、情報を適時適切に発信することが求められます。一方、攻めの経営では、失敗を恐れず、果敢にチャレンジする、言い換えれば、リスクに挑み、乗り越えていく意欲と気概が求められます。そうでないと新たな境地は開拓できないからです。
各担当執行役には、それぞれの立場、それぞれが担う経営課題の責任範囲を理解いただき、対応するよう、働きかけていきたいと考えています。

<取締役会の評価と今後>

「攻めの経営」への議論を加速

2022年度は、取締役会が19回、監査委員会が21回開催されました。私自身、これまでいくつかの企業で社外取締役を経験していますが、これほど高い頻度で開催している企業はありません。
取締役会では、毎回、執行側と自由闊達に議論できていると受け止めています。ただし、2022年度のテーマを振り返りますと、廃炉や原子力、小売事業の状況等、TEPCOグループの存続に影響を及ぼす足元の経営課題、すなわち、守りの経営に関するテーマへの議論に多くの時間を費やさざるを得ませんでした。
2023年度も、足元の重要な経営課題が山積していることから、引き続き、守りの経営に対する議論が中心になるのではないかと考えています。
例えば、ALPS処理水への対応については、本年8月24日に多くの皆さまのご協力、ご理解のもと、海洋放出を開始しましたが、廃炉が終わるその時まで、「ご信頼を裏切らない」「風評を生じさせない」との強い決意で、オペレーションの安全・品質の確保、迅速なモニタリングや正確な情報発信等に取り組まなければなりません。
また、柏崎刈羽原子力発電所7号機の再稼働に向けては、安全最優先を大前提として、発電所が地元や社会の皆さまからご信頼いただける存在となれるよう、発電所と本社が一体となり取り組みを継続していかなければなりません。
しかしながら、TEPCOグループが企業として成長していくためには、攻めの部分にも力を入れていく必要があります。例えば、カーボンニュートラル社会の実現に向けた取り組み等、攻めの経営についても取締役会での議論を加速させていきたいと考えています。
現在、執行側において、2022年4月28日に公表した「長期的な安定供給とカーボンニュートラルの両立に向けた事業構造変革」に基づき、太陽光発電や蓄電池等の地産地消型の設備サービス等、事業領域の拡大に向けた具体的なアクションに関する検討を進めておりますが、個々の事業の進捗だけでなく、カーボンニュートラル社会の実現に向けたアクションの全体像について、さらにスピードを上げて検討するよう、執行側に働きかけるとともに、取締役会でも議論していきたいと考えています。

<取締役会の体制>

多様なバックグラウンドを持つメンバーで構成

現在、取締役会は13名、そのうち6名が社外取締役、それ以外の取締役にも他業界の出身者が含まれており、多様なバックグラウンドを持つメンバーで構成されています。
他方、政府により、東京証券取引所のプライム市場に上場している企業に対し、2030年までに女性役員の比率を30%以上とする目標が示される中、現在の女性の取締役は2名、また、グローバルな視点を取り入れるという意味での課題もあるのではないかと認識しています。
今後の取締役会の体制については、TEPCOグループが担う社会的責任や使命に加え、事業の広がりに鑑み、多様性の拡大等も含め、検討していく必要もあるのではないかと考えています。
なお、取締役会の実効性評価については、毎年、取締役へアンケートを実施するとともに、3年毎に第三者機関による評価を行っています。これにより、的確にフィードバックを受けることができ、取締役会の実効性向上に寄与していると考えています。

<ステークホルダーの皆さまへ>

社会やお客さまからのご信頼が事業のベース

冒頭にも申し上げた通り、TEPCOグループは、電力の安定供給の確保、福島への責任の貫徹はもちろん、カーボンニュートラル社会の実現にも貢献する、といった日本や福島を支える重要な使命・責務を担っています。
そして、これらの使命・責務を果たしていくにあたり、常に意識しなければならないことは、あらゆる事業のベースに、地元や社会、そしてお客さまからのご信頼があるということです。これ無くして、事業を存続する資格はなく、当然、新たなチャレンジもできないことをこれまでも繰り返しグループ内に伝えてきました。今後も、TEPCOグループ全体として、立場を越えて連携し、社会目線・お客さま目線に立ち、ご信頼、ご安心いただけるよう、事業を進めてまいります。
私自身も取締役会長として、全てのステークホルダーの皆さまのために全力を尽くしてまいりますので、引き続きご理解、ご支援をお願い申し上げます。

東京電力ホールディングス株式会社
取締役会長

小林 喜光