事故の根本原因分析
1.過酷事故対策の不備
事故の振り返り
過酷事故対策が2002年に完了したが、それ以降も過酷事故対策を継続的に強化していれば、事故の影響を少しでも緩和できたのではないか?
事故の根本原因
過去の判断に捉われて全電源喪失等により過酷事故が発生する可能性は十分小さく、さらに安全性を高める必要性は低いと思い込んだ結果、過酷事故対策の強化が停滞した。
問題点の整理
安全意識の問題 |
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技術力の問題 |
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対話力の問題 |
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2.津波対策の不備
事故の振り返り
事故以前の津波の高さの評価の見直しの際等に、事故の影響を少しでも緩和するために、何らかの対策が取れたのではないか?
事故の根本原因
知見が十分とは言えない津波に対し、想定を上回る津波が来る可能性は低いと判断し、自ら対策を考えて迅速に深層防護の備えを行う姿勢が足りなかった。
問題点の整理
安全意識の問題 |
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技術力の問題 |
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対話力の問題 |
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3.事故対応の準備不足
事故の振り返り
過酷事故や複数号機の同時被災を想定し、実践的な訓練や資機材の準備をしていれば、福島第一の事故の影響を少しでも緩和できたのではないか?
事故の根本原因
過酷事故や複数号機の同時被災が起こると考えていなかったため、現場の事故対応の訓練や資機材の備えが不十分であった。その結果、重要なプラント状態の情報の共有や迅速・的確な減圧操作等ができなかった。
問題点の整理
安全意識の問題 |
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技術力の問題 |
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対話力の問題 |
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4.従来の改革活動の限界
様々な改革でも事故を防げなかった
これまで、原子力部門は、過去の不祥事を契機に、様々な改革活動を実施してきました。たとえば使用済み燃料輸送容器データ改ざん問題を機とする風土改革(1998年)、トラブル隠しを機とする原子力再生活動、品質管理システム(QMS)の導入、強化(2002年)などです。また、経営トップの引責辞任や、他部門からの原子力部門トップの起用など、改革活動の中には一定の効果を上げた試みもありましたが、今回の福島原子力事故を防ぐことができませんでした。検証により、その原因を以下のように捉えています。
組織的に安全意識を向上させる対策の不足 | 原子力の安全は既に十分に達成されていると認識し、原子力不祥事を安全文化劣化の兆候とは捉えず、コミュニケーションスキルや課題解決手法の不足と捉えたため、組織的に安全意識を向上させる対策が不十分だった。 |
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経営層に対する改革案の不足 | 安全意識は経営層が率先して取り組むべきものにもかかわらず、不祥事の原因が中間管理層や現場組織の問題であるとの認識のもとで、経営層を対象にした改革案が無かった。 |
不明瞭な組織の権限と責任 | 緊急時に組織の権限と責任の不明瞭さが顕在化したが、平常時においても同様にマネジメントの権限と責任にあいまいさがあった。 |
5.負の連鎖
当社は、福島原子力発電所の事故に至るまで、安全最優先をビジョンとして掲げ、旧原子力経営層の誰ひとりとして「安全最優先」としなかった者はいませんでした。それにもかかわらず、「安全最優先をビジョンとして掲げた組織が、なぜ今回の福島第一原子力発電所事故を防げなかったのか」ということが問題の本質と考え、さらに深掘りした分析を行っています。
負の連鎖の存在
- 一連の不祥事や新潟県中越沖地震という稼働率に大きく影響を与えた災害が発生しており、原子力部門に対する稼働率向上が重要な経営課題と認識していた。
- 過酷事故対策のように、効果が評価しにくいものは先送りされがちで、稼働率に影響する対策が優先されがちだった。
- 稼働率維持・向上を確実なものとする対策を実施するために、過度にメーカー依存が進み、当社の技術力やシステムを俯瞰する能力の不足につながった。
- この能力の低下が、技術論を規制当局と議論する力や、原子力の残余リスクを開示する能力の低下の一因となり、リスクコミュニケーションを躊躇することで、対話力低下に拍車がかかった。
- 加えて、原子力発電という特別なリスクを扱う企業として、当時の経営層全体のリスク管理に甘さがあったと考えている。
関連情報
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原子力安全改革の取り組み
原子力発電という特別なリスクを持った設備の責任を有する事業者は、一般産業をはるかに上回る高い安全意識を基礎として、世界中の運転経験や技術の進歩を取り入れ、確固たる技術力を身につけ、日々リスク低減に向けた努力を徹底して継続する必要があります。事故の根本原因分析を踏まえて、安全意識、技術力、対話力を向上するため、不退転の覚悟をもって原子力部門の改革や、地域・社会の皆さまとのコミュニケーションの改善に取り組んでいます。