2) 事故直後、何をしてきたのか
①あらゆる手段を講じて原子炉へ注水する
長時間にわたり全交流電源と直流電源が使用不能となったことから、電源を使用する設備による1号機、2号機、3号機の原子炉への注水ができなくなり、消防車による原子炉への注水を試みました。消防車が注水する圧力より原子炉圧力が高いと原子炉内に注水できないため、2号機と3号機ではまずは原子炉を減圧するために設置された主蒸気逃し安全弁を、あらゆる手段を講じて開けて、原子炉格納容器を減圧する必要がありました。そのため、発電所に駐車していた社員の自動車から取り外したバッテリーを中央制御室に運びつなぎ込みました。主蒸気逃し安全弁が開いたことにより圧力容器の圧力が低下したため、消防車からの注水が可能になりました。
また、原子炉内の蒸気や水素が主蒸気逃し安全弁等から原子炉格納容器へ放出され続ける一方、格納容器の除熱ができない時間が続いたため、格納容器内の圧力が高まりました。圧力の異常上昇により格納容器が破損し、大量の放射性物質が放出される事態になることを避けるため、格納容器内の圧力を低下させる「格納容器ベント」という操作を行うことにしました。
「格納容器ベント」を実施するためには、2種類の弁を開ける必要があります。一つは電動弁で、もう一つは空気作動弁です。全ての電源が喪失している中、電動弁は弁本体に付属しているハンドルで発電所の運転員が手動で開けました。一方、空気作動弁は手動操作が不可能あるいは困難だったため、弁を動かすためにはエアコンプレッサ(エンジン付)とアダプタ、バッテリー等が必要になりました。発電所内からこれらの機材を収集・準備して、「格納容器ベント」操作を行いました。最終的に、1号機と3号機では格納容器の圧力が低下したことが確認され「格納容器ベント」は成功したと判断していますが、2号機については「格納容器ベント」による格納容器の圧力の低下は確認されていません。
また、消防車により原子炉へ注水する際の水源には、当初、発電所内の防火水槽の淡水を使用していましたが、その後は海水も使用しました。さらに、消防車による原子炉への注水を継続するために、定期的に消防車の燃料を補給しました。その後、1号機、2号機、3号機とも3月中に消防車ではなく仮設電動ポンプで注水できるようにし、水も海水ではなく淡水を注水できるようになりました。
福島原子力事故調査報告書(中間報告書)
※報告書中、『8.津波到達以降の対応状況』をご参照下さい。
福島原子力事故調査報告書(中間報告書) 本編(概要版)(平成23年12月2日)
福島原子力事故調査 中間報告書の公表について(平成23年12月2日)
※福島原子力事故調査報告書(中間報告書) 本編の他、添付資料等をご覧頂けます。
②より安定的に原子炉へ注水する
消防車を使って原子炉へ注水していた配管経路(注水ライン)は、「消火系配管」という非常時用のものでしたが、平成23年5月からは「給水系配管」という、通常、原子炉の冷却のために使われる注水ラインを使って注水できるようになりました。さらに、同年9月から順次12月までには、1号機、2号機、3号機全てで「炉心スプレイ系配管」という注水ラインも使用できるようになりました。このように注水ラインの多様化を進めてきたほか、原子炉に注水するポンプも、常用高台炉注水ポンプ3台、非常用高台炉注水ポンプ3台、純水タンク脇炉注水ポンプ3台、タービン建屋内炉注水ポンプ6台などに加え、消防車複数台なども配備するとともに、機器の故障や外部電源の喪失、再び大きな津波が来襲してきた場合に備えて、多重・多様にバックアップできる設備にしました。
原子炉に注入した水は、損傷した圧力容器から格納容器へ抜けて、さらに建屋地下へ漏えいし、高濃度汚染水となって滞留していきました。このままでは建屋から溢れてしまうため、止水処理などを行った集中廃棄物処理建屋に高濃度汚染水を移送して貯蔵するとともに、この汚染水から放射性物質や塩分を取り除き、原子炉への注水に再利用することとしました。このため、同年6月までに汚染水に含まれる放射性物質や塩分を取り除く水処理設備や処理水などを保管するタンクを建設しするとともに、処理水を原子炉への注水に再利用するための配管やホースを、発電所敷地内に総延長約4kmにわたって設置して、「循環注水冷却システム」を構築しました。少しでも早くシステムの運用を開始できるよう、水処理設備の設置に当たっては、世界中から技術を募りました。
放射性滞留水の回収・処理の取組み~各タンクの貯水量と保有水管理計画・水処理設備の信頼性向上~(平成23年11月12日)
放射性滞留水の回収・処理の取組み~水処理(放射性除去)の仕組み~(平成23年10月29日)
放射性滞留水の回収・処理の取組み~概要編~(平成23年10月22日)
放射性滞留水処理システムの概要について(平成23年6月9日)
③使用済燃料プールを冷却する
1号機から4号機の使用済燃料プールでは、プール水が燃料の熱によって蒸発し燃料が露出する可能性があったため、あらゆる防止策が検討されました。爆発によって原子炉建屋が壊れた1、3、4号機については、壊れた建屋上部から、自衛隊のヘリコプターを用いた水の投下や、警察庁機動隊や米軍の高圧放水車、東京消防庁の屈折放水搭車、コンクリートポンプ車などを用いた注水を行いました。また、2号機については、「燃料プール冷却浄化系配管」という配管経路を用いて海水注入が行われました。
その後、注水をせずに自動的に冷却することのできる代替循環冷却運転を、2号機は平成23年5月に、1、3、4号機も同年8月までには順次開始しました。
なお、5号機と6号機の使用済燃料プールおよび運用補助共用施設の使用済燃料共用プールについては、同年3月中に冷却ポンプを起動して冷却できるようになりました。
<4号機原子炉建屋と使用済燃料プールの状態について>
福島第一原子力発電所の4号機使用済燃料プールは、現在も水温20~30℃、水位は使用済燃料から上に約7m覆われた状態に維持されています。平成24年1月1日に発生した鳥島付近を震源とする地震により、一時的にスキマサージタンクの水位が低下しましたが、プールの水温および水位に変化はありませんでした。同年2月9日にプールの透明度調査のために水中カメラを入れましたが、平成23年5月7日にプール内を点検したときと同様、建屋爆発に伴う瓦礫が落下しているものの、燃料はラックに収納された状態であることを確認しています。
また、平成24年1月22日に原子炉建屋5階の状況を点検し、5階床面と原子炉ウェル水面は平行であることを確認しており、原子炉建屋が傾いているということはありません。
福島原子力事故調査報告書(中間報告書)
※報告書中、『8.9使用済燃料の貯蔵状況』をご参照下さい。
福島原子力事故調査報告書(中間報告書) 本編(概要版)(平成23年12月2日)
福島原子力事故調査 中間報告書の公表について(平成23年12月2日)
※福島原子力事故調査報告書(中間報告書) 本編の他、添付資料等をご覧頂けます。
政府・東京電力中長期対策会議 運営会議 第3回会合(平成24年2月27日)
資料3 個別の計画毎の検討・実施状況 4号機使用済燃料プール内のガレキ撤去のための調査について