引越し時に発生する敷金・礼金とは?|
敷金の意味とは。「返ってこない」と聞くけど実際はどう?
それではまず敷金について見ていきましょう。実は敷金は、民法でも規定されているお金です。その定義は「賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭」。もっとシンプルに言うと、契約の際に「担保として家主(大家)に無利息で預けておくお金」になります。
では、なぜ預けなければならないのでしょうか? それは、担保という言葉で表現されているように、入居者側に責任がある「家賃滞納時の補てん」や「傷や汚れの修繕費」として使われるためです。しかし、家賃滞納や故意・過失による傷や汚れがない場合は、あくまでも預けているお金なので返金されるのが原則です。
なお、関西地方や中国地方、九州地方などの一部地域では、敷金の代わりに「敷引」と呼ばれる習慣があるようです。これは退去時のルームクリーニング代など、あらかじめ設定した金額を敷金から差し引くことで、それ以外が返金の対象となります。似たような制度で、やはり関西地方に多い「保証金」というものがありますが、こちらは敷金に比べて高めの設定。大家へのお礼の意味も込められており、敷引と同様に償却される金額を差し引いた返金額が契約時に決まっている場合があります。
敷金の相場は家賃の1〜2ヶ月分
※出典:国土交通省 住宅局/令和4年度「住宅市場動向調査」/https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001610299.pdf
実際の敷金の額ですが、賃貸物件の情報欄に直接金額が明記されているか、家賃の月数で表示されている場合があります。「令和4年度住宅市場動向調査報告書」によれば、下記のような結果が出ています。
・敷金/保証金があったという世帯は58.7%
・敷金/保証金の月数は「1ヶ月ちょうど」が64.9%、「2ヶ月ちょうど」が 25.0%
敷金の相場は、おおむね家賃の1~2ヶ月分と考えればよいでしょう。ただし2ヶ月分超え、3ヶ月分超えという初期費用の負担が大きくなってしまう物件もあります。
敷金は返ってくる?退去時のトラブルを防ぐためのポイント
敷金は原則返金されますが、正確には傷や汚れの修繕費など、原状回復のための費用を差し引いた金額が返金されることになります。一方でSNSなどでは、「敷金が戻ってこなかった」という声が非常に多く見受けられます。これには退去時の解約について、何らかのトラブルが起きてしまった可能性も考えられます。
一般的に、不動産業者が退去後に行う敷金精算は、国土交通省が公表する「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」に沿って行われます。同省が定義する原状回復とは「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」。つまり「明らかに自分がつけた傷や汚れを直すこと」です。このガイドラインに従えば、解約時に敷金から差し引かれる金額が明確になるのですが、これに沿っていない基準で判断されると、敷金が戻ってこないといったトラブルにつながるのです。
先ほど説明した「敷引」は、あらかじめ差し引く金額が設定してあるためトラブル防止に効果的ですが、このほか、敷金トラブルを防ぐための注意ポイントをいくつか確認しておきましょう。
<敷金トラブルを防ぐための注意ポイント>
- 契約書で「償却」表記の有無をチェック
- 例えば「敷金○ヶ月、敷金償却1ヶ月」という表記があった場合、たとえ傷や汚れをつけていなくても、敷金は1ヶ月分を差し引いた額しか戻ってきません。
- 畳、襖についての特記事項をチェック
- 一人暮らし向けで和室の物件は少なくなりましたが、和室があり、「畳・襖の張り替えは入居者負担」と契約書に書いてある場合、退去時にその費用が必要です。
- ペットOK物件の特記事項をチェック
- 通常、ペットによる傷や汚れは入居者負担となります。
- 喫煙者は要注意
- たばこによるヤニ汚れや臭いが通常のルームクリーニングで落ちないと過失と判断され、敷金から償却される場合があります。
- 住宅設備に要注意
- キッチン、洗面台、ユニットバスなどに、錆やカビ、頑固な水アカ汚れがつくことで、その原状回復のための費用が高額になる場合があります。
礼金の意味とは。「払いたくない」という声も多いその理由
敷金が民法で明確化されている一方、礼金は特に法律で定義が定められているものではありません。その意味は文字通り「大家にお礼として支払うお金」であり、一度支払うと返金はされません。敷金が原則返金されるため、礼金の額を抑えられれば初期費用の軽減はもちろん、退去までの総費用も抑えられることになります。
礼金はもともと江戸時代に始まった慣習とされています。人口が急激に増えた江戸で住宅不足が深刻化し、対策として幕府の土地に壁1枚で仕切った「長屋」が建てられていきました。その長屋を管理する大家に、住宅不足の中で貸してくれたお礼にお金を払うようになり、現代まで慣習として残ってきたのです。
大家とのつながりが希薄になった現代では、「部屋を借りる対価をきちんと支払うのだから礼金は不要」との考えもあるようです。「初期費用で納得できない項目」を調査したアンケートで、最も多かったのが「礼金」という結果も。こうした世の中の意見を反映し、最近は礼金なし物件も増えてきました。
礼金の相場は家賃の1ヶ月分
※出典:国土交通省 住宅局/令和4年度「住宅市場動向調査」/https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001610299.pdf
礼金の額は敷金同様、直接金額が明記されるか、家賃の月数で表示されます。「令和4年度住宅市場動向調査報告書」によると、下記の結果になります。
・礼金があったという世帯は44.8%で、敷金に比べ少ない傾向
・礼金の月数は「1ヶ月ちょうど」が69.4%で最も多い
礼金の相場はほぼ家賃の1ヶ月分。ただし2ヶ月超え、3ヶ月超えという物件があるのは礼金も同じです。礼金は戻ってこないお金だけに、敷金以上にしっかり確認する必要があるでしょう。
敷金・礼金なし物件のメリット・デメリット。「退去費用を請求される」などトラブルの心配は?
初期費用を大きく抑えられる「敷金・礼金なし物件」について、あらためて見ていきましょう。「令和4年度住宅市場動向調査報告書」によると、賃貸物件で「敷金なし」は33.9%、「礼金なし」は46.5%の結果に。「第25回賃貸住宅市場景況感調査」では、「全国で礼金なし物件、敷金(保証金)なし物件が増加傾向にある」とされています。
※出典:日本賃貸住宅管理協会/第25回賃貸住宅市場景況感調査/https://www.jpm.jp/marketdata/pdf/tankan25.pdf
このように敷金・礼金なし物件が存在するのは入居者にとってメリットがあるからですが、一方でデメリットがあることも覚えておかねばなりません。
まずメリットですが、これは初期費用が抑えられることに尽きるでしょう。例えば家賃7万円で敷金・礼金なし物件の場合、同家賃で敷金・礼金が共に1ヶ月分必要な物件に比べ、初期費用で14万円節約することができます。
そしてデメリットですが、下記のようなことが挙げられます。
<敷金・礼金なし物件のデメリット>
- 退去時に「修繕費」「ルームクリーニング費」を請求される場合がある
- 敷金なし物件でも原状回復の原則は同じで、退去時にまとまったお金が必要となる可能性も。傷や汚れをつけないよう、普段から気をつけて生活することが大切です。
- 相場よりも家賃が高い場合がある
- 敷金・礼金なし物件は、その分を家賃に上乗せされている場合があります。初期費用は抑えられても、いずれ家賃の積み重ねで同等の額になってしまうことも。
- 建物の老朽化や、部屋が修繕されていない場合がある
- 敷金・礼金なし物件でよく見られる事例。生活していく上で不便・不都合がないか、事前の確認が重要となります。
- 周辺環境(日当たり・騒音・治安・住民トラブル等)にマイナス面がある
- これらについても、できる限り情報収集し、事前にしっかり確認しましょう。
- 「短期違約金」が設定されている場合がある
- 敷金なしの代わりに、入居後、短期間で解約すると違約金が発生する契約を結ばねばならない物件があります。
- 保証会社への加入が必要な場合がある
- 保証会社への加入を義務化することで、原状回復にかかる費用を賄い、敷金なしにしている物件があります。
上記のリストから、敷金がなくてもそれに代わる形でお金が発生する場合があることがわかります。また、礼金なし物件の場合は、大家の善意であることも多いようです。礼金があることで空室になるよりも、礼金をなくして入居してもらい、家賃収入を得るという運営上の理由もあります。
なお、退去についてはルールが設けられているケースもあるので、事前に不動産会社にしっかり確認しておきましょう。特に書類の備考欄は入念にチェックする必要があります。「鍵交換代」「ルームクリーニング代」「抗菌処理費用」「24時間サポートサービス費用」といった表記は、理由をよく理解した上で契約を結びましょう。
引越し時には敷金・礼金のほかにも仲介手数料、申込金などの初期費用が発生することも
※出典:国土交通省 住宅局/令和4年度「住宅市場動向調査」/https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001610299.pdf
「令和4年度住宅市場動向調査報告書」によると、賃貸住宅の契約時に困った経験として、「敷金・礼金などの金銭負担」が51.6%で最も多くなっています。ここでいう金銭負担には、敷金・礼金以外に発生する初期費用も含まれています。
引越し時は、下記費用の有無も必ずチェックしておくようにしましょう。
<敷金・礼金以外で発生する初期費用>
- 仲介手数料
- 部屋を借りる際、大家との間を仲介して契約を成立させる不動産会社に支払う手数料
- 前家賃
- 部屋を借りる際、通常1ヶ月分の家賃を前もって払うこと
- 管理費/共益費
- 賃貸物件の共用部分を管理・維持するため、毎月支払う費用
- 保険料
- 賃貸物件は火災保険加入が義務化されている場合が多い
- 申込金
- 部屋を借りる意思表示として契約前に支払い、部屋を借りることを決めた場合は契約金に充当される
さらに契約後は、2年ごとに「更新料」が発生する賃貸物件が非常に多くなっています。相場としては、家賃の1ヶ月分と考えればいいでしょう。
以上のように、部屋探し、そして引越しには非常に多くの項目でお金が発生することになります。少しでもその額を減らしたいところですが、そのために大切なのは、やはり慎重さです。細かな資料に目を通すことに億劫になりがちですが、見落とした内容で余分にお金を支払う結果になってしまうこともあります。
時間の許す限りじっくり賃貸物件と向き合い、支払うお金はその部屋で過ごすこれからの生活とつり合いが取れているか、想像力を働かせながら検討していきましょう。
※掲載している情報は2024年2月現在の情報です。
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