300を超える自治体との「防災協定」の締結
~レジリエンス強化に向けて~
2022/01/25
東京電力グループでは、災害発生時においてもお客さまへ電気を安定的にお届けし続けるために、東京電力サービスエリア内の自治体を対象に「防災協定」の締結を進めています。きっかけは、2019年の台風によって起こってしまった大規模停電。停電の解消に至るまで多くの時間を要してしまったことへの反省をもとに、経済産業省と連携して進めているこの取り組み。取り組みの背景と進捗状況、今後に向けた思いを担当者に聞きました。
“防災協定”でつくる災害に強いまち
東京電力パワーグリッド株式会社
業務統括室 総務グループ
坂本 道明
1992年入社。主に千葉エリア内での業務経験を経て、2019年7月より現職。総支社・支社による自治体との防災協定の締結支援を担当。
東京電力パワーグリッド株式会社
業務統括室 総務グループ
水野 泰
1998年入社。群馬エリアや本社における総務関連部署での業務を経て、2020年10月より現職。坂本とともに防災協定の締結支援を担当。
災害発生時の対応スピードを左右する「連携」の力
坂本「2019年9月、最大瞬間風速57.55m/sを記録した台風15号が千葉県を中心とした関東全域を襲いました。この台風による影響で東京電力サービスエリア内では最大約93万戸もの停電が発生。グループを挙げての懸命な復旧作業に取り組みましたが、その解消に至るまで約16日間という時間を要してしまいました。このことをきっかけに経済産業省内に設置されたのが、国民生活を支える安定的な電力供給や停電の早期復旧の実現のための検討を行う “電力レジリエンスワーキンググループ”です。同ワーキンググループは停電発生時の調査を行い、2020年1月、災害時対応への懸念点や問題点を整理した報告書を公開しました」
水野「この報告書には、停電長期化に係るさまざまな要因が挙げられています。例えば、災害対策の情報連絡員によって集められた被害情報の伝達や、指揮系統が複雑化していたこと。これにより、現場での対応の判断や復旧作業の指揮に遅れが生じてしまったこと。また、約2,000本もの電柱倒壊の主たる原因となった倒木の除去作業が効率的に行えていなかったことへの言及もありました。こうした指摘一つひとつを真摯に受け止め、対応していく責務が当社にはあります」
坂本「一方で、我々だけで全てを対策することが難しいのも事実です。各自治体にご協力をいただきながら、有事に向けた備えを万全にしていかなければなりません。そのための足掛かりとなるのが防災協定。現在、東京電力サービスエリア内の9都県363市区町村の自治体を対象に、協定の締結を進めています」
水野「有事に停電が起こってしまった際のスピーディーな復旧を実現するには、平時から自治体と私たち民間企業がお互いに共通認識を持ち、事前に役割分担を確認しておく必要があります。災害対応の際、『どのような法律に基づいて復旧対応をしているのか』『自治体と当社にはどのような役割分担があるのか』が曖昧なままでは、迅速な対応が難しい。協定の締結に向けた協議を通じて、各々の災害時における役割を確認し、明確化させることにより、お互いに果たすべき責務に全力を注ぐことができるようになります」
坂本「例えば、障害物除去。災害対策基本法第64条では、有事の際の道路の障害物を除去する権限は市町村長にしか与えられていません。台風による倒木で道が塞がれてしまった場合、必要な場所まで電源車や作業車が入ることができず、復旧の遅れにつながってしまいます。これを協定の締結を通じて、有事の際の権限を事前に認めていただくことで、我々が迅速に障害物を除去し、すばやく復旧作業を進めることができるようになります。相互理解に基づいて連携を強化し、各地域にお住まいの方々のくらしを守ることができる、そのために欠かせない取り組みだと思っています」
有事への備えが、地域との関係を深める
坂本「防災協定の締結は、当社と各自治体との連携をより強固なものにすることにもつながっています。『防災の日』である9月1日に共同で防災訓練を実施したり、災害時の倒木によるライフラインの被害を防止するために、倒壊の恐れがある樹木を事前に伐採したりといった取り組みが、いくつも動き出しています。平時から、自治体と防災について対話できる機会を増やし、災害に強いまちづくりに貢献していければと考えています」
水野「また、各都県と連携した予防伐採の効率化によって、伐採に伴う道路の通行制限を削減できるなど、地域の負担も軽減できています。さらに、予防伐採の取り組みは、“防災”そのものにとどまらない地域貢献につながるケースも増えてきています。例えば静岡県では、伐採した樹木を当社が持つ粉砕機を利用してウッドチップ化しています。ウッドチップは、地面に敷くと樹木の吸水性により水たまりができにくくなる上、クッション性があり子どもが転んでも安全なので、県内の公園などで有効活用されています。防災協定が起点になって、自治体との連携が深まり、さまざまな分野で地域に住む皆さまの生活に寄り添えているのは嬉しいですね」
これからも、使命を全うし続けていくために
坂本「“電気を供給する”ことは、電力会社として絶対的な使命です。それは、これまでもこれからも変わりません。一方で、近年の災害の激甚化に伴いこれまで通りでは対応しきれない面も増えてきています。各自治体と連携し対応することで、より一層電力会社としての使命を全うできるはず。幸い、ご理解いただける自治体が広がってきて、今や東京電力サービスエリア内の9割近い自治体との防災協定の締結が完了しています。今後も『お客さま最上流』を意識し、お客さまや地域社会の期待を超える価値が提供できるよう、地域の方々が必要としていることを見極めながら対応していきたいと思います」
水野「理解が広がっている一方で、まだ防災協定の締結に至っていない自治体もあります。引き続き交渉を進め、一日でも早く万全な防災ネットワークを構築していきたいですね。また、『防災』や『カーボンニュートラル』を軸とした新たな価値の創造により、災害に強いまちづくりにも貢献していく必要があります。私たちインフラ事業者と自治体は、『地域の皆さまが安心して生活できる環境を提供する』という共通の想いのもとで動いています。電気は地域の皆さまの生活の根源といっても差し支えないほどの重要なライフラインの一つ。有事に停電が与えてしまう地域の皆さまの不安や恐怖を、最小限に食い止めることが私たちの使命です。自治体を含めた地域の関係各所と連携して、これからも皆さまが安心して生活できる環境をつないでいきたいと思います」
自治体に加え企業とも連携、「オール栃木」で備えを万全に
他県に先駆けていち早く防災協定を締結し、その「先」まで見据えている東京電力パワーグリッド栃木総支社。栃木県だけでなくNTT東日本などの各ライフライン事業者とも連携し、防災ネットワークを築いています。
東京電力パワーグリッド株式会社
栃木総支社(広報・渉外担当)
金子 徳明
1985年入社。主に水力・変電部門で保守運営業務を担当。2019年より現職。栃木県ならびに県内ライフライン事業者と連携し「オール栃木・ライフライン防災強化検討」を担当。
オール栃木で進める“予防伐採”
金子「栃木総支社では、2019年に発生した台風15号・19号の教訓を踏まえ、自治体との連携による災害対策の重要性を鑑み、栃木県内のライフライン事業者であるNTT東日本、NTTドコモ、東京ガスと連携し「オール栃木」による災害復旧の迅速化などを目的に2019年12月より意見交換を開始。その結果、2020年7月、栃木県ならびにライフライン4事業者が協働して防災協定を締結しました。災害復旧対応力の早急な改善に向けて、各団体が連携を深めるのは日本で初めての取り組みです。
防災協定の主な内容は3点です。1点目は“災害復旧拠点の確保”です。各ライフライン事業者が優先的に使用できる災害復旧拠点を栃木県と連携して決定し、災害時に使用できる体制を整備。これにより各ライフライン事業者が重複することなく円滑に復旧作業を進めます。
2点目は“作業員の宿泊・休憩場所の確保”です。県有施設など、あらかじめ災害発生時の県外からの復旧応援者の宿泊・休憩施設を決定し、作業員の労働環境を向上することで健康面への配慮ならびに効率的な作業運営を可能としました。
3点目は“予防伐採”です。各ライフライン設備を倒木から守るため、栃木県ならびにNTT東日本と協働して予防伐採計画を策定。まずは試験的に、2020年12月、日光市中禅寺湖畔北側の国道120号に隣接する樹木の予防伐採を実施しました。
“オール栃木予防伐採5カ年計画”を策定し、倒壊の危険度が高く大規模な設備被害が予想される樹木の予防伐採に着手しており、2022年1月現在、栃木県内7カ所の予防伐採を開始しています」
レジリエンス強化の「先」に ~地域と歩むために~
金子「栃木県内各地域の予防伐採を進める中で、自治体と連携をとる機会は格段に増えました。それをきっかけに当社が後援することとなったのが、2021年11月に日光市で行われた『ライトアップ奥日光』というイベント。観光地として魅力の高い土地でありながら、冬場は客足が遠のくというお悩みを耳にし、当社の技術を生かしたイルミネーションで地域活性化や観光客増加に貢献することができました。
レジリエンス強化を目的とした地元との連携が信頼関係につながり、さらなる地域貢献を生む好循環。今後も、東京電力グループが持つ技術や知見を生かし、地域に貢献できるように関係各所との連携を密に、防災レジリエンスを高めながら地域貢献への取り組みも進めていきたいと思います」