【掲載年月日:2019年8月16日】
世界が認めた安全とおいしさ。
「味わいと食感のバリエーションを楽しんでください」
桃づくりのプロが牽引する福島の桃
いままさに、桃の旬を迎えている福島。なかでも皇室への献上桃の産地として有名な桑折町で『感謝農園平井』を経営する平井國雄さんを訪ねました。
平井さんは果樹栽培のプロフェッショナルとして桑折町の桃を世界へ、未来へと繋げようと奮闘されている、いわば“桃の極め人”。今回は、そんな桃への愛情あふれる平井さんに、福島の桃ならではの魅力を教えていただきました。
そもそも平井さんが、ここ桑折町で農園をはじめたのは2010年6月のこと。ところがそれから1年も経たない2011年3月11日、東日本大震災が発生。農作物への被害と、それに続く風評被害も広がるなか、「ここでくじけてしまっては終わり」と、より安全・安心な農業経営にチャレンジしてきました。
なかでも、世界基準の農業認証『グローバルGAP』の取得は大きな誇りです。
厳しい国際基準をクリア!
グローバルGAP(Good Agricultural Practice)とは、直訳すると“よい農業の実践”という意味で、農産物の品質や安全安心を保証する国際認証です。いま、世界中でこのグローバルGAP取得に取り組む動きが広がっており、現在日本国内では、約700の経営体がこれを取得(2019年3月末現在)。ひとつの経営体に所属する農家数を数えると、多くの生産者が認証取得に取り組んでいることがわかります。
けれどその審査基準はとても厳しく、作物の品質はもちろんのこと、土壌や水質、農薬の使用法、さらには働く人たちの環境と安全など、生産にかかわるあらゆる工程に及び、200以上もある厳しい基準をクリアしなければなりません。
平井さんは寝る間も惜しんでこれに取り組み、ついに2016年9月、この認証を取得しました。「ピンチをチャンスに」の努力がみのり、桃でのグローバルGAP取得は、国内第一号です!
これは平井さんの育てた桃が、安全管理の面でも世界的に認められたことを意味します。さらには、グローバルGAPの指導員の資格を取るスタッフも年々増え、安全でおいしい桃づくりは着実に次世代へと繋がっています。
世界へ誇れる桃づくり
「夢は桃の輸出」と語る平井さん。グローバルGA取得後は、国内外から問い合わせが増え、一昨年はインドネシアへ1トンの桃を輸出しました。今では現地バイヤーの要望を受けて桃の加工品の開発や販路の拡大などに奮闘し、福島の桃をグローバルブランドへと押し上げることに力を注いでいます。
「震災後、福島の名はいろんな意味で世界に知られるようになりました。でもこれを逆手にとれば、“安全・安心な桃づくりの福島” としても認知されやすいのではないかと思います」と語る平井さん。
7月から10月まで、長く楽しめるのも魅力
『感謝農園平井』では、全体で25ヘクタールある敷地の内、10ヘクタールを使って桃を育てています。
「うちの農園では、7月初旬の早生種にはじまり、9月いっぱいもしくは10月まで各品種の桃を順に収穫し出荷していきます。桑折町は盆地ならではの寒暖差がはげしい特有の環境で、甘くておいしい桃づくりに適しています。また、粘土質の豊かな土壌も、桃をはじめとする果樹栽培には最適なんです」
それぞれの品種が最もおいしくなる時期を見極めながら、日々手入れと収穫に精を出す平井さんと40人のスタッフの皆さん。
「桃は、1つの枝に10回から15回ほど手をかけて育てていきます。
いい蕾や花を残すようにして摘蕾、摘花を繰り返し、最終的にはひとつの立派な桃になるように、果実の間引きを繰り返して育てているんです。100の花からひとつの桃に絞っていくイメージですね」
ひとつずつに手間をかけ、まるでお姫様のように大切に育てられている桃。
その品種名も、『はなよめ』、『はつひめ』、『玉うさぎ』、『さくら』など愛らしい名前が多く、作り手の愛情の深さを感じさせてくれます。
ご存知ですか? かたい桃!
桃といえば、「果肉がやわらかくてジューシー」という感想が一般的。でも、福島の桃のおいしさはそれだけではありません。数ある品種の違いによって、その味わいや食感も実にさまざま。かたいままの食感を楽しむ桃もたくさんあります。
農園内では20種類以上の桃を育てている平井さん。
「たとえば、2014年に初めて作られた注目の品種『ふくあかり』は、カリッとした歯ざわりが魅力。糖度が高くて甘い桃ですが、あと味にはもぎたての爽やかさが残ります。
また、献上桃として名高い福島の主力品種『あかつき』も、かたく引き締まっているのが特徴ですが、果肉がきめ細かく果汁が多く香り高いのも魅力です。日持ちもよいので、贈答品としての需要が高い桃です。
桃は一日でもおくと、糖度が1度あがって甘くなり、肉質も柔らかくなってしまいます。それぞれの桃が持つ本来の味を楽しむなら、届いてからあまり日をおかずに召し上がってください」
これから8月いっぱいのおすすめは「『黄貴妃(おうきひ)』と『黄金桃(おうごんとう)』という黄色い桃です」と語る平井さん。実が白い白桃種に比べて、実が黄色い黄桃種は、以前は缶詰等の加工品に利用されることが多かったのですが、品種改良などの努力が実り、いまでは新鮮なおいしさを味わえ、品種も増えてきました。「きめが細かい白桃に比べて、黄桃はねっとりとした果肉が持ち味。芳醇な風味は南国フルーツに似ています」
『感謝農園平井』では、収穫後すぐに、全国への発送も行っています。毎年楽しみにしているお客様からは、「2、3種類の桃を混ぜて送ってください」という要望も多いのだとか。「ご希望の方へはご注文いただいたその時期に、収穫できた旬の品種を混ぜて発送しています。どの桃が届くかはお楽しみです」
夏の味覚を象徴する桃。たくさんの品種を味わえるのも、旬が長い福島の桃ならではの贅沢です。早生種から晩生種へと、桃の暦を追うように順次取り寄せて食べ比べ、なんていうのも新しい桃の楽しみ方かもしれませんね。
平井國雄・ひらいくにお
『感謝農園平井』代表取締役。『桑折町スマート農業実証協議会』会長。
2010年6月、現在の地で農園経営をはじめる。
それから1年も経たない2011年3月11日、東日本大震災が発生。
農作物への風評被害も広がるなか、より安全・安心な農業経営を推し進めるべく、
『グローバルGAP』の取得へと取り組む。桃のGAP国内取得第一号でもある。
将来の夢は「桃の輸出」と語る平井氏の理想は、福島の地に根を張り、世界、未来へと枝葉を広げている。