取材協力
株式会社 湯浅ファーム
〒 969-3539 福島県喜多方市塩川町源太屋敷字前畑1572番地
【掲載年月日:2019年6月19日】
風評被害に悩まれされ続け、2011年東日本大震災から4年目。
「やっと、福島県産の牛肉の安全性が世の中に知られるようになったんです」
湯浅さんの声のトーンが一段上がった。
「全頭検査で厳しい基準値をクリアしていることが少しずつ広まって、ようやく『ふくしま会津牛』の肉にも目を向けてもらえるようになりました」
この頃、福島県は農林水産物の魅力と安全性をテレビCMや交通広告などを使って全国に向けて発信していた。それでも震災当時の原子力事故について何か報道されるたびに、牛肉の競りの値には影響が出る。
湯浅さんたちは牛肉を手に取ってくれる人をさらに増やそうと試食販売を重ねて、安全・安心はもちろんのこと品質の良い牛肉であることを熱意を込めて地道にPRした。
「ありがたいことに東京で応援してくれるバイヤーさん(買参人)がいました。“福島牛を育てる会”の会長さんでもあり、その方が経営する精肉店の店頭で毎年11月と2月に試食販売のイベントをやらせていただきました。中卸業者でもある会長は自ら牛肉を買って“福島の牛は、モノがいいから買ってみ!使ってみ!うまいから!”って、新しい肉屋さんへの口添えもしていただいたんです。自分も店頭に立って、『ふくしま会津牛』の購入者へのプレゼントも準備して、少しでも多くのお客さんに食べてもらえるように、生産者の顔を見せることが信頼につながるように、って努力しました。」
そうしたこともあり回を重ねるごとに協力の輪は広がっていき、震災以降に離れてしまったお客さんがだんだんと戻ってきたような感覚を得るようになった。
そして2015年、湯浅さんの『ふくしま会津牛』にとって、一大転機が訪れる。
全国の都道府県から選抜された優秀な和牛が集まる品評会で最高・最良の肉質を競った結果、栄誉ある賞に輝いたのだ。
まず2月には第50回肉用枝肉共励会で最優秀賞となる農林水産大臣賞を受賞。続けて7月には、第17回全農肉牛枝肉共励会で、全国300頭の中から名誉賞を受賞して日本一となった。
この時に出品された枝肉は、震災前の売値の4倍近くにもなる値段で落札された。
「7月の共励会は、日本一を狙って出品しました。福島の評価をあげるためにも、チャンピオンの牛をつくりたいと思ったのです。結果、『ふくしま会津牛』は、こんなにすごい最高の牛なんだっていうことを証明できた。全国にアピールできて、今まで苦しい日々の中やってきたことがやっと報われた。最高でした!」
この受賞によって全国の畜産農家から一目置かれるようになり、さらに次の受賞に向け、県内の畜産農家の競争心に火をつけることとなった。肥育の研究をさせてほしい、エサはどういう配合をしているのか、などと湯浅ファームへの視察者も多くなり、各地からバスで訪れることも頻繁になった。
「切磋琢磨して一緒にエサの配合研究をしてきた会津の畜産農家の皆さんと、要望に応えてくれる飼料会社があって、地域で一体となって工夫してきた結果ですから、みんなでとった賞だと思っています!」
地域全体の牛肉のレベルも上がり、湯浅さんはその代表として一躍を担っている。
学び合うことを大事にしているのでエサの配合表は隠さずオープンにしているが、気候や仔牛の特徴の違いなど地域性によって配合は変えた方が良いことが多い。少しでもエサが合わないと、牛はストレスが溜まってしまうデリケートな生き物なのだ。ストレスは、肉質に大きく影響すると考えている。
湯浅さんは2016年の全農肉牛枝肉共励会でも2位となる最優秀賞の受賞を果たしたが、県内のそれぞれの地域の畜産農家の名人達も負けてはいない。その後の肉用枝肉共励会の農林水産大臣賞は大玉村、二本松市、南相馬市と3年連続で福島県の畜産農家が獲得し、さながら福島牛の風評被害の空気を吹き飛ばすかのような勢いとなった。
折しも同じ頃、福島県の日本酒にも注目が寄せられていた。日本酒の出来栄えを競う全国新酒鑑評会の金賞受賞銘柄数・連続日本一を毎年更新していたのである。2019年には、なんと7年連続の日本一となった。現在会津は霊峰・飯豊山や磐梯山の清らかな水に恵まれ、受賞した有名酒造が密集している地域でもある。畜産業界だけでなく、お互いを良きライバルと認め合う産地の作り手たちが、ともに復興をめざして、圧倒的な質の良さで市場の評価を勝ち取ったのだ。
酒どころ、米どころの会津で、牛は美味しく育つ。「福島の牛がチャンピオンになるのはいいことだ」と言う湯浅さんの目は、すでに次の受賞に向けて輝いていた。しかし、『ふくしま会津牛』と共に生きていくためには、まだこれから解決しなくてはならないことがあった。 (第5話へ続く)
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株式会社 湯浅ファーム
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