平成20年6月18日
東京電力株式会社
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<概要>
(事象の発生状況)
・平成20年5月25日に発生した高圧注水系および原子炉隔離時冷却系の運転上
の制限からの逸脱事象について、原因調査および対策が完了したことから、
6月5日に原子炉を再起動しました。その後、所定の原子炉圧力において両
系統の作動試験を行い、問題なく作動することを確認いたしました。
(経済産業省原子力安全・保安院への報告について)
・本件についての原因と対策、ならびに作動試験結果についてとりまとめ、本
日、経済産業省原子力安全・保安院に報告書を提出いたしました。
■高圧注水系の不具合について
○高圧注水系の作動試験時の蒸気らしきものの発生について
(推定原因・対策)
・高圧注水系の弁のボルトの締め付け不良により、当該弁の上蓋から蒸気が
わずかに漏えいしたものと推定いたしました。
・当該ボルトについて十分な締め付けを実施し、締め付け状態に問題がない
ことを確認いたしました。
・また、所定の原子炉圧力において当該系統の確認運転を行い、漏えいのな
いことを確認いたしました。
○高圧注水系の作動試験時の警報発生について
(推定原因・対策)
・高圧注水系を駆動させる蒸気の止め弁に油を供給する系統に混入する空気
の除去が十分でなく、その空気の影響により、当該弁が開く動作時間が遅
くなったものと推定いたしました。
・当該系統の空気抜きを十分行うため、タービン停止後に油ポンプを一定時
間運転することを手順書に反映することといたします。
■原子炉隔離時冷却系の不具合について
(推定原因・対策)
・原子炉隔離時冷却系の弁の弁棒の回転を防止するナットの締め付けが不十
分であったためと推定いたしました。
・当該ナットへ弁棒の廻り止め用のビスを取り付けるとともに、十分な締め
付けを実施し、締め付け状態に問題がないことを確認いたしました。
・また、所定の原子炉圧力において当該系統の確認運転を行い、弁棒に回転
等の異常のないことを確認いたしました。
(今後の予定)
・準備が整い次第、制御棒の引き抜きを開始し、原子炉を起動する予定です。
(安全性、外部への影響)
・本事象による作業員および外部への放射能の影響はありません。
詳細は以下のとおりです。
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1.事象の発生状況
平成20年5月25日、起動操作中の福島第一原子力発電所5号機において、高圧
注水系*1の作動試験を実施したところ、「高圧注水系タービントリップ」の警
報が発生し、警報とほぼ同時に現場より、蒸気の量を調整する弁付近から蒸気ら
しきものが発生しているとの連絡を受けたため、運転員が高圧注水系の手動停止
操作を行いました。このため、保安規定で定める「運転上の制限*2」から逸脱
していると判断いたしました。
ただちに「運転上の制限」を満足しない場合に要求される措置である原子炉隔
離時冷却系*3の作動試験を実施したところ、同系統も自動停止したことから「
運転上の制限」から逸脱していると判断し、保安規定の要求*4にもとづき午前
3時40分から原子炉の停止操作を開始し、午前10時49分に原子炉を停止いたしま
した。
午後1時45分、原子炉の圧力が低下し、保安規定による高圧注水系と原子炉隔
離時冷却系の動作要求がなくなったことから、「運転上の制限」の逸脱から復帰
いたしました。
本件については、5月27日、国への報告対象事象*5であると判断し、報告す
るとともに、6月4日、調査結果、推定原因および対策をとりまとめ、中間報告
を行いました。
その後、6月5日に原子炉を再起動し、所定の原子炉圧力において高圧注水系
および原子炉隔離時冷却系の作動試験を行い、両系統とも問題なく作動すること
を確認いたしました。
(平成20年5月25日、27日、6月4日、7日お知らせ済み)
2.経済産業省原子力安全・保安院への報告について
当社は、本件について、原子炉の再起動後、高圧注水系および原子炉隔離時冷
却系の作動試験を行い、両系統とも問題なく作動することを確認し、本日、推定
原因と対策、ならびに作動試験結果についてとりまとめ、経済産業省原子力安全
・保安院に報告書を提出いたしましたので、お知らせいたします。
推定原因と対策、ならびに作動試験結果は以下のとおりです。
3.高圧注水系の不具合について
3−1.高圧注水系の作動試験時の蒸気らしきものの発生について
(1)推定原因
作業員が高圧注水系を駆動させる蒸気の量を調整する弁(以下、高圧注水
系の蒸気加減弁)の上蓋のボルトを締め付ける工具の締め付け力設定もしく
は倍力装置の使用方法を誤った可能性があり、当該ボルトが十分締まってい
なかったため、高圧注水系の作動試験において高圧注水系の蒸気加減弁に流
入した蒸気が蓋のあわせ面から漏えいしたものと推定いたしました。
(2)対策
当該ボルトについて十分な締め付けを実施し、締め付け状態に問題がない
ことを確認いたしました。
当該ボルトを締め付ける際は、締め付け力の設定を的確に行うとともに、
倍力装置の使用状況を確実に確認することとし、その旨を要領書に記載する
ことといたします。なお、締め付け力の設定値や倍力装置の使用状況につい
ては、今後、記録を残すことといたします。
(3)作動試験結果
所定の原子炉圧力において高圧注水系の作動試験を実施した結果、蒸気加
減弁の蓋の合わせ面に異常は認められず、対策が妥当であることを確認いた
しました。なお、他の締め付け箇所についても異常は確認されませんでした。
3−2.高圧注水系の作動試験時の警報発生について
(1)推定原因
当初は、今回の定期検査において、オリフィス*6を小さい径のものに
取り替えたことから、高圧注水系を駆動させる蒸気の止め弁(以下、高圧
注水系の蒸気止め弁)を開く装置への油の供給量が減り、必要な油圧に到
達するまでの時間が、これまでよりも長くかかってしまったものと推定し
ておりましたが、元の径のオリフィスに戻し、所定の原子炉圧力において
高圧注水系の作動試験を実施した結果、オリフィス径の変更が油圧上昇へ
与える影響は小さいことがわかりました。
改めて調査を行った結果、高圧注水系の運転時に蒸気止め弁を動かす油
圧系統*7へ混入した空気が、油圧の上昇に影響を与えていたことがわか
りました。
(2)対策
高圧注水系のタービンを停止した後は、油圧系統の空気抜きを十分行う
ため、油ポンプを一定時間運転することを手順書に反映することといたし
ます。
(3)作動試験結果
油ポンプを運転して油圧系統の空気抜きを十分行ったのち、再度、高圧
注水系の作動試験を実施した結果、蒸気止め弁が正常に動作し、警報も発
生しないことを確認いたしました。
4.原子炉隔離時冷却系の不具合について
4−1.原子炉隔離時冷却系の自動停止について
(1)推定原因
原子炉隔離時冷却系を駆動させる蒸気の量を調整する弁(以下、原子炉隔
離時冷却系の蒸気加減弁)の弁棒の回転を防止するナットの締め付けに関す
る具体的な手順が要領書に定められておらず、ナットの締め付けが不十分と
なっていたところ、原子炉隔離時冷却系の運転時の振動と蒸気が弁を押す力
により弁棒が回転して弁が開く方向に動き、その動作量が弁の開閉動作の制
御範囲を超え、弁の動きを調整することができず、蒸気の量が増えてタービ
ンの回転数が上昇し、自動停止に至ったものと推定いたしました。
(2)対策
当該ナットについて十分な締め付けを実施し、締め付け状態に問題がない
ことを確認いたしました。
・原子炉隔離時冷却系の蒸気加減弁に弁棒の廻り止め用のビスを取り付けま
した。
・原子炉隔離時冷却系の蒸気加減弁の弁棒に当該ナットを取り付ける際は、
十分な締め付けを行い、弁棒が回転しないことを確認する旨を要領書に反
映いたします。
(3)作動試験結果
・所定の原子炉圧力において原子炉隔離時冷却系の作動試験を実施した結果、
弁棒の動作に異常は認められないこと、また、当該系統の運転状態にも異
常は認められないことを確認し、対策が妥当であることを確認いたしまし
た。
5.今後の予定
・今後、準備が整い次第、制御棒の引き抜き作業を開始し、原子炉を起動する
予定です。
6.安全性、外部への影響
今回漏えいした蒸気の量はわずかであり、発電所敷地周辺に設置された空間
線量率を測定するモニタリングポストおよび主排気筒放射線モニタ*8等の指
示値は通常の変動範囲内であったことから、本事象による作業員および外部へ
の放射能の影響はありません。
以 上
*1 高圧注水系
非常用炉心冷却系の一つで配管等の破断が比較的小さく、原子炉圧力が
急激には下がらないような事故時に、原子炉の蒸気を駆動源にしてポンプ
を回し、原子炉に冷却水を注入することのできる系統。
*2 運転上の制限
保安規定では原子炉の運転に関し、「運転上の制限」や「運転上の制限
を満足しない場合に要求される措置」等が定められており、運転上の制限
を満足しない場合には、要求される措置にもとづき対応することになる。
*3 原子炉隔離時冷却系
何らかの原因により、通常の原子炉給水系が使用不可となり、原子炉水
位が低下した場合等において、原子炉の蒸気を駆動源にしてポンプを回し、
原子炉の水位確保および炉心の冷却を行う系統。なお、本系統は非常用炉
心冷却系ではない。
*4 保安規定の要求
保安規定では、原子炉圧力が1.04メガパスカル以上のときは、高圧注水
系と原子炉隔離時冷却系が動作可能であることを要求している。
高圧注水系が動作可能でない場合は、原子炉隔離時冷却系の機能が健全
であることを、原子炉隔離時冷却系が動作可能でない場合は、高圧注水系
の機能が健全であることを確認することを要求している。
また、高圧注水系と原子炉隔離時冷却系のいずれも動作可能でない場合
は、24時間以内に原子炉を停止することを要求している。
*5 報告対象事象
「実用発電用原子炉の設置、運転等に関する規則」の第十九条の十七に
おいて、原子炉の事故故障等があった場合に経済産業大臣に報告すること
を定めており、第五号において「原子炉施設の故障(原子炉の運転に及ぼ
す支障が軽微なものを除く)により、運転上の制限を逸脱したとき」をそ
の対象としている。
*6 オリフィス
流量を制御するために、配管の途中に設けた絞り穴。
*7 油圧系統
高圧注水系の制御用の油およびタービン等の潤滑油を供給する系統。
*8 主排気筒放射線モニタ
主排気筒放射線モニタは環境への放出にあたり、排気中の放射線を測定
する装置。
添付資料
・高圧注水系系統概略図(手動起動試験時)、原子炉隔離時冷却系系統概略図
(手動起動試験時)(PDF 23.2KB)
・高圧注水系の蒸気加減弁からの蒸気漏えい事象概要図(PDF 38.1KB)
・高圧注水系の油圧系統概略図(PDF 40.4KB)
・原子炉隔離時冷却系の蒸気加減弁の構造図および事象発生概要図(PDF 134KB)
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