複数の企業による共同プロジェクトで、
これまでにないマイクロ水車を利用した発電に挑戦

2017/10/30

東京電力の経営技術戦略研究所では、広く社外から技術やアイディアを公募するなど、オープンイノベーションによる共同開発や研究を推進しています。その現場から、複数の企業による共同プロジェクトで小規模水力発電の効率化を目指す、新しい取り組みをご紹介します。

東京電力ホールディングス株式会社
経営技術戦略研究所 リソースアグリゲーション推進室
プロジェクト推進グループ

宇都宮 幸司さん

重電メーカーから東京電力へ出向し、2年間NAS電池の研究に携わったのち、2002年入社。入社後は経営技術戦略研究所に勤務し、電力貯蔵ソリューショングループなどで研究活動に従事。その間、約1年間福島の賠償業務に携わる。2017年4月から現職。

マイクロ水車による発電システムで、小規模水力発電の課題に挑む

東京電力では、自由化後の競争に打ち勝ち、グループ全体の企業価値を向上させていくために、あらゆる分野での徹底した効率化に挑んでいます。私の所属する経営技術戦略研究所では、それを支援するための研究や技術開発に取り組んでいますが、今回ご紹介するマイクロ水車による発電システムの開発もそのひとつです。

水力発電というと、一般的には大きなダムなどをイメージしがちですが、川の上流から長い水路で水を引き込み、落差が得られるところで発電する比較的小規模な水力発電もあり、水路式水力発電と呼ばれています。この水路式水力発電はほとんどが山間部に点在しており、発電に用いる水を管理する装置などを動かすためには、下流の発電所で発電した電力が必要です。その際、山中に長い配電線を引かねばならず、人手を要する土木工事などに大きなコストや時間がかかってしまいます。

この課題を解決するためには、山中で独立した電源を確保しなければなりません。そこで私たちは、WEB上の「TEPCO CUUSOO」で、「山中に点在する設備や装置に安定的に電源供給する技術」を公募しました。その結果、複数の企業から得意分野をいかしたご提案をいただくことができましたので、それぞれの企業の高い技術力を統合した合同プロジェクトを立ち上げ、新しいシステムの開発に取り組むことにしたのです。
それが、山中の水路を利用し、取水口に設置した小さなマイクロ水車を回して発電する、独立型の電源システムです。※「TEPCO CUUSOO」 エネルギー関連の技術・アイディアのためのオープンイノベーションプラットフォーム

パートナー企業とともにつかんだ成功

マイクロ水車、電源装置、現場工事を担当する3つのパートナー企業とともにタッグを組み、まずは実証試験に向けたシステムの開発がはじまりました。それぞれの企業にとって、マイクロ水車による発電システムの開発ははじめてでしたが、私にとっても、複数の企業による合同プロジェクトを率いるのははじめての経験です。そのプレッシャーを感じつつ調整役を務めましたが、すべての企業が足並みを揃えるのは簡単ではありません。それでも、各企業のみなさんがそれぞれの課題に熱心に取り組んでくださり、私もその解決にできる限り協力し、みなの力を結集して開発を続けました。

実証試験の現場の選定は、システム開発と同時進行で進められ、さまざまな条件を考慮して茨城県日立市の川尻川に決まりました。その現場で実証試験を行うには、電気系統を接続するための電気図が必要で、それは私の担当です。ところが、通常あるはずの元の電気図が存在しないことがわかり、ゼロからの作成になったので、想像以上に時間を要する作業になってしまいました。スケジュールも厳しく時間との戦いでしたが、工事がはじまってからは約1週間現地に泊まり込み、不具合があればその場で対応し、ホテルに戻って電気図の修正を繰り返しました。

そんな状況のなか、なんとかスケジュールどおりに工事を進め、最終段階であるマイクロ水車設置の日を迎えました。設置作業はぶっつけ本番ですし、ここで水車が回らなければこれまでの苦労が水の泡です。そう思うと、前夜は緊張してなかなか寝付くことができませんでした。当日は雨のなか、パートナー企業のみなさんとともに一つ一つの工程を慎重に行い、マイクロス水車を設置するところまでは無事に作業が進みました。ところが、その水車がなかなかスムーズに回りません。これも仕方ないと落胆しかけたところで、水車が勢いよく回り出したときには、うれしいと同時に本当にほっとしました。

オープンイノベーションが挑戦を続ける原動力に

今回の合同プロジェクトでは、はじめは、各企業がそれぞれの技術開発や作業に集中していたので、目の前の個別の目標に向かって違うベクトルを持っていました。しかし、マイクロ水車が回り出したときの本当にうれしそうなみなさんの笑顔を見て、それぞれのベクトルが、今ここでひとつに重なったと感じました。最終的には同じ目標を目指していたのです。その結果が今回の成功へとつながりました。この経験は私にとって貴重な財産となりましたし、パートナー企業のみなさんに心から感謝しています。

社内資源のみに頼らず、広く社外から技術やアイディアを集めるオープンイノベーションにはさまざま利点があります。私は、パートナー企業の方々の意見を聞いて、新しい課題の解決策を学びましたし、逆に私の提案が、他の企業のみなさんの気づきになることもありました。そういう相乗効果は大事ですし、今回の取り組みが、オープンイノベーションのさらなる加速につながることも期待しています。

マイクロ水車による発電システムは、無事に実証試験をはじめることができましたので、今後はさまざまなデータを分析しながら、実用化に向けての取り組みを進めます。将来的には、大きな河川や湖の水門を開閉するための電源や、農業用水路での発電など、水路式水力発電以外への利用にも広げていきたいと考えています。その過程では、困難なことも多くあると思います。そのときはまた、いろいろな企業さんの力を借りたオープンイノベーションで、一つ一つの壁を乗り越えながら、新しい取り組みへの挑戦を続けていきたいと思います。

関連情報

  • TEPCO CUUSOO

    山中に点在する設備や装置に安定的に電源供給する技術

  • TEPCO CUUSOO

    東京電力グループは、新しい考え方や科学技術で社会にインパクトをもたらし、新しい価値の創造、社会的課題の解決を共に実現してくださるパートナーを求めています。

  • 東京電力報
    TEPCO CUUSOOで「EV活用アイデアコンテスト」を開催

    経営技術戦略研究所リソースアグリゲーション推進室の取り組み『コンテストで最優秀賞を獲得した研究チームとともに、持続可能な社会を実現する、電気自動車(EV)の新たな価値創造』について紹介します。

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