厳しい廃炉の現場で、前例のない原子炉内部調査に挑む
2017/03/10
福島第一原子力発電所では、廃炉の重要な工程のひとつである原子炉の内部調査がはじまっている。高い放射線量の中で行われる、事前の情報がほとんどない原子炉の調査には、さまざまな課題が立ちはだかる。その現場で働く社員に、この前例のない調査に挑む思いを聞いた。
久米田 正邦
東京電力ホールディングス株式会社 福島第一廃炉推進カンパニー
福島第一原子力発電所 冷却設備部
冷却第四グループ マネージャー
1993年入社。建設中の柏崎刈羽原子力発電所4号機の起動試験に従事し、運転開始後は技術グループに所属。東京電力技術開発研究所や本社勤務を経て、2011年10月、福島第一原子力発電所へ配属。汚染水処理業務を担当したのち、2015年7月から原子炉の内部調査に携わる。
安全を第一に、一つずつステップを踏みながら着実に調査を進める
原子炉内部調査の目的は、燃料デブリを取り出すため、その分布や原子炉格納容器内の状況を確認することです。燃料デブリとは、溶けた燃料と原子炉の構造が混ざり合い冷えて固まったものです。
現在、原子炉は、継続的な冷却により安定した状態になっていますが、放射線量の高い内部の様子はほとんどわかっていません。ですから、前回までの調査で得られた情報から次の調査方法を検討し、目的にあった新たなロボットなどを開発して次の調査を行う、ということを繰り返し行います。調査の過程では思いがけない障害にぶつかることもありますが、その都度原因を探り、対策を立案し、対策の妥当性や安全性を確認した上で作業を再開するというように、一つひとつのステップを慎重に進めながら、安全を第一に着実な調査を進めています。
高い放射線量の中で、操作員が重機に乗車して行った難しい作業
私が現在の部署に着任してすぐの2015年7月、2号機の原子炉内部調査の準備段階で思わぬ課題にぶつかりました。2号機では、専用の遠隔装置を使い、ロボットの投入口を塞いでいたしゃへいブロックの撤去作業を進めていました。しかし、最下段ブロックがどうしてもはがれず、遠隔装置で取り除くことができなくなったのです。
この課題を解決するため、智恵を絞り、さまざまな方法を検討しましたが、作業員が実際に重機に乗車して作業するしかないという結論に至りました。これは、放射線量の高い場所で行うたいへん難しい作業です。
重機の運転席は鉛で覆われているので、作業員は自分の目で周囲を見ることができず、カメラの映像だけを頼りに操作しなくてはなりません。しかも、作業時間は厳しく管理され、いかに短い時間で作業するかという放射線との戦いもあります。そのため、事前に練習用のブロックを用意して繰り返しの操作訓練を行い、あらゆることを想定しながら数ヶ月かけて準備を整えました。
それでも、本番では何が起こるかわかりませんから、当日はたいへんな緊張感のなかで作業が進められました。私も固唾を呑んでそのようすを見守っていましたので、ブロックが無事撤去され、作業が完了した瞬間の感動は今でも忘れられません。
関心が高く、注目が集まる作業だからこそ、立ち止まる勇気も必要
廃炉の重要な工程である原子炉内部調査には、多くの方々が注目しています。だからこそ、新たな課題に直面したときは、一度立ち止まり、検証と対策をきちんと行い、その過程についてもできる限りわかりやすくご説明するように心掛けています。迅速で正確な情報発信とともに、安全を第一に、慎重に調査を進めることは何よりも大事だと考えています。
難しい原子炉の内部調査では、思うように進まず落胆することもあります。そんなとき、自らを励ますために思い浮かべるのは、復興した福島の未来です。震災後にはじめて福島に赴任し、事故後の状況しか知らない私は、発電所の周囲で地域の方々が安心して暮らす姿をよく想像します。その光景を1日も早く自分の目で見ることができるよう、これからも、長きにわたる廃炉作業の完遂に向けて全力で取り組んでいきたいと思います。
関連情報
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私が、お応えします。
廃炉の「今」と「これから」今、廃炉の現場では何が行われているのだろう?
これから、どのように作業は進められていくのだろう?
そのようなみなさまの疑問や質問に、私たち東京電力はきちんと向き合いたい。
だからこそ、廃炉プロジェクトに携わる社員みずからが、心をこめてお応えします。 -
燃料デブリの取り出しに向けて
~2号機原子炉格納容器内部調査福島第一原子力発電所2号機。
廃炉に向けてもっとも困難なミッションである溶け落ちた燃料の取り出し作業を行うため、原子炉格納容器内部の調査を実施しました。
入念な準備・対策により、ダストの拡散や作業員の被ばくを防ぎつつ、内部の画像や線量・温度といった貴重な情報を得ることができました。