地域とともにつくる次世代エネルギー
地熱発電事業の可能性に挑む
2025/01/10
東京電力リニューアブルパワー株式会社では、水力発電や風力発電事業、海外での再生可能エネルギー事業に加え、地熱発電の事業化にも力を入れています。地熱発電事業は、有望地点の選定から運転開始までに最短でも約10年もの時間を要し、成功率は約3割といわれる難易度の高いプロジェクトです。また、日本の地熱資源は国立公園・国定公園内や温泉地の近くにあることが多いため、地域の方々のご理解とご協力を得ながら進めることが不可欠です。地熱発電は国内資源として、カーボンニュートラルを実現するための持続可能な再生可能エネルギーの選択肢として注目されており、地域活性化にも貢献できる可能性があります。今回は、地下2,000メートルに達する井戸を掘削する探査事業に携わり、地熱発電の未来に挑む3名の技術者に、その取り組みと想いについて聞きました。
※所属・肩書は2024年12月時点の情報です
東京電力リニューアブルパワー株式会社
事業開発室 地熱グループ
佃 十宏
2023年9月入社。地熱資源調査開発の技術統括として、栃木、群馬を含む全案件の調査・開発を担当。社外の専門家の知見も活用しながら、広い視野を持ってプロジェクトに取り組むことを心がけている。
東京電力リニューアブルパワー株式会社
事業開発室 地熱グループ
安田 和弥
2024年3月入社。主に群馬(赤城山)のプロジェクトを担当。事業計画策定、委託発注・進捗管理、公的機関との調整、申請業務を担う。地熱を通じて地域の方々と密に関わることに意義とやりがいを感じている。
東京電力リニューアブルパワー株式会社
事業開発室 地熱グループ
桃木 大地
2024年4月入社。主に栃木(塩原)のプロジェクトを担当。事業計画策定、委託発注・進捗管理、公的機関との調整、申請業務を担う。地熱プロジェクトの社会的波及効果や開発余地に可能性を感じ、その価値最大化を目指して取り組んでいる。
地熱発電の仕組みと現状
地熱発電は、地下のマグマからの熱エネルギーを活用する発電方法です。地下深くに浸透した雨水がマグマの熱で高温の蒸気や熱水に変わり、地下1,000m〜3,000m付近にたまります。地熱発電の基本的な仕組みは、井戸の掘削により地下にたまった蒸気・熱水を地上に取り出し、この蒸気でタービンを回して発電します。メリットは、他の再生可能エネルギーと比べて設備利用率が高く、長期間にわたって安定的に発電できる点です。
また、発電後の余熱や熱水を農業や観光産業に活用できるため、地域経済の活性化にも貢献できる可能性が十分にあります。日本は地熱資源量が多く、開発可能量は636万kWに達しますが、現状の開発量は約60万kW(約9%)にとどまっています。
地熱発電事業化に立ちはだかる壁
佃「当社はカーボンニュートラル社会への貢献のために、再生可能エネルギーの主力電源化を進めています。100年近く実績のある水力発電事業や、現在開発および構築中の風力発電事業に加え、電源多様化の一つとして地熱発電事業にも取り組んでいます。地熱発電は有望地点の選定から初期調査、噴気試験などの探査事業を経て、運転を開始するまで最短でも約10年の長い時間と莫大なコストを要する上に、事業化の成功率が約3割と低いことが課題となっています」
桃木「日本の地熱資源量は世界第3位を誇ります。この豊富な資源は、持続可能なエネルギー源として大きな可能性を秘めていますが、そのポテンシャルの高さに対して、地熱発電への活用はまだ進んでいないのが現状です。逆に言えば、これは未来に向けた大きなチャンスと捉えることもできます。長く厳しい道のりを乗り越え、事業化を成功させることが技術者としての使命であり、挑戦でもあります」
安田「事業化判断に資する掘削調査には温泉法に基づく掘削許可が必要であり、この許可を得るためには近隣の温泉事業者さまを含む地域の方々の同意が不可欠です。同意をいただく際には、掘削を伴う調査・開発が温泉源に悪影響を及ぼす可能性を懸念し、慎重な姿勢を取られる温泉事業者さまも多くおられます。そのため、初期調査の計画段階から、温泉事業者さまを含む地域の方々と対話を重ね、ご理解・ご協力いただくことが非常に重要だと考えて取り組んでいます」
地熱発電事業の成功と早期化への挑戦
佃「成功率を高め、早期の事業化を実現するためには、探査事業における井戸の掘削を『何本目かで成功する』ではなく、『最初の1本を成功させる』ことが求められます。そのためには、文献を読み込み、いろいろな調査データの品質を確認し、精査した上で、予断なく総合的に解析する必要があります。検討過程においては先達の方々の経験と知見をお借りし、各方面の専門家にも幅広くご意見・ご指導をいただきながら、事業化に向けて技術的な取り組みを進めていきます。このような挑戦こそが当社が強みを発揮できる部分であり、技術者としてのやりがいを強く感じる点です」
安田「地熱調査に伴う掘削はおおむね地下2,000mから3,000mになります。一方、温泉の掘削は地下数10mから数100m程度であり、対象とする深度に大きな離隔があるため、温泉への影響はほぼないと考えられますが、ゼロと断定できるものではありません。そこで、温泉事業者さまの懸念を払拭すべく、専門性に基づいた調査データの評価検討と慎重な事業運営を行うとともに、地域の方々の理解を得るため、誠実な気持ちを持って対応し、共存の道を探っています」
地熱発電事業の成功とその先にあるもの
桃木「地熱発電事業は、地域の方々と連携し、地域に根差した持続可能なプロジェクトとして取り組むことで、地熱資源の活用およびカーボンニュートラル社会の実現と同時に、地域経済の活性化にも貢献できると考えています。例えば、地熱発電の副産物である熱を使ったハウス栽培による野菜生産など、地域の産業を支えるビジネスモデルの創出につなげたいです。また、発電所が稼働した後には、発電所の管理業務に伴う雇用も生まれ、さらには街づくりにも関与できる可能性があります。地域との絆を深めながら、地域の長期的かつ持続可能な発展に貢献できるようなプロジェクトを目指しています」
安田「地域の方々に安心していただくには、データの透明性が不可欠です。温泉モニタリング調査の結果や掘削の進捗状況など、可能な限り情報を公開し、共有しています。また、地域イベントのお手伝いや、調査のタイミングで顔を出して世間話をするなど、対話を通じて信頼関係を築くことも大切にしています。当社に対する皆さまの期待と信頼に応えられるよう、真摯に取り組んでいます」
持続可能なエネルギーの開発と地域の発展への貢献を目指す
佃「私たちは、過去の経験から学び、現在の新たな知見を活かして地熱発電の可能性を最大限に引き出すことを使命と考えています。地域活性化への期待に応えるべく、地域の方々のご理解とご協力の下、事業化の成功に向けてこれからも努力を続けてまいります。そして、遠くない未来に地熱発電が日本のエネルギー供給の大きな一翼を担うことを目指して、この使命を次の世代に引き継いでまいります」
桃木「日本は地熱資源に恵まれた国です。この豊富な資源を活かし、成功事例を生み出すことで、他の地域にも波及効果をもたらす可能性を秘めています。不確実性が多いプロジェクトではありますが、一つ一つの課題を乗り越えることへの大きなやりがいと、プロジェクトが成功した先には、次世代に新しい選択肢を残すことができるという想いを胸に、今後も愚直に取り組んでまいります」
安田「困難な中でも、地域の方々から『早く発電所をつくってほしい』という声をいただくことが、大きな励みとなっています。発電所の設立によって地域に貢献し、その結果として、地域の方々の笑顔を見ることが私のモチベーションとなっています。個人的には、30年、40年、50年と、長く使い続けられる発電所を作りたいという夢があります。地熱発電所が稼働し、安定したエネルギー供給をもたらす未来を思い描きながら進めていきます」