原子力発電の安全性の向上へ
事故進展の状況を解き明かす

2024/02/29

原子力発電の安全性の向上へ事故進展の状況を解き明かす

福島第一原子力発電所の事故の直接原因やその後の進展メカニズム等については、多角的な調査や分析により、その多くの事項を解明し、事故調査報告書や原子力安全改革プランを通して公表しています。

一方で、残されたデータ等の記録や廃炉の現場には、原子力発電の安全性の向上や、廃炉作業を安全かつ効率的に進めることに寄与すると考えられる、未確認・未解明事項が残っています。当社は事故当事者の責務として、引き続き現場調査やシミュレーション解析等により全容を解明するためのプロジェクトに取り組んでおり、解明した事項は、海外からも「世界の原子力発電所の安全性向上に有益である」との評価を得ており、注目されています。

このプロジェクトで、調査や検証に携わる他、報告書の作成や社内外への公表、説明に携わる3名にお話を聞きました。

福島第一廃炉推進カンパニー福島第一原子力発電所
燃料デブリ取り出しプログラム部 試料輸送・建屋内調査PJグループ
課長

本多 剛

2007年入社。2014年より現職。未確認・未解明事項の調査・検討における各種調査・検討の実施の他、検討結果の取りまとめ、社内外への説明等を担当。

本多 剛さん

福島第一廃炉推進カンパニー福島第一原子力発電所
燃料デブリ取り出しプログラム部 試料輸送・建屋内調査PJグループ

溝上 暢人

2010年入社。柏崎刈羽原子力発電所の安全対策に関する業務を経て、2016年より現職。同調査・検討の実施と報告書の作成を担当。

福島第一廃炉推進カンパニー福島第一原子力発電所
燃料デブリ取り出しプログラム部 試料輸送・建屋内調査PJグループ

大和田 賢治

2016年入社。柏崎刈羽原子力発電所の保安規定の管理等に関する業務を経て、2020年より現職。同調査・検討の実施と報告書の作成、報告書の英訳、公開に関する業務を担当。

溝上 暢人さん 大和田 賢治さん

左から溝上 暢人、大和田 賢治

事故の現場に残る原子力発電の安全性向上への知見を探る

本多「福島第一原子力発電所の事故の根本原因等については、事故調査報告書や原子力安全改革プランを通じて公表してきました。未確認・未解明事項の調査・検討とは、そこからさらに踏み込んだ取り組みのことです。
1〜3号機では事故進展が異なることから各号機で原子炉圧力容器内、格納容器内の状況が異なります。その事故進展の過程や差異を精査し、明らかにすることが必要だと考えています。これらの解明は、既設原子力発電所の安全性向上に向けた教訓を得ることに加え、廃炉作業においても、安全かつ効率的に進めるための知見を導き出せる、そんな価値があると考えています」

2014年8月に行なった第2回進捗報告から当取り組みに携わる本多

2014年8月に行なった第2回進捗報告から当取り組みに携わる本多

2号機原子炉建屋内の壁面に付着する放射性物質のサンプルを採取する遠隔操作ロボット。線量が高く、人が長時間立ち入れない場所を走行させ、映像取得、線量測定、放射性物質のサンプル採取等を実施することにより、事故の痕跡に関する情報を取得し、事故進展の確認・解明を進めている

2号機原子炉建屋内の壁面に付着する放射性物質のサンプルを採取する遠隔操作ロボット。線量が高く、人が長時間立ち入れない場所を走行させ、映像取得、線量測定、放射性物質のサンプル採取等を実施することにより、事故の痕跡に関する情報を取得し、事故進展の確認・解明を進めている

事故の当事者としての意識や使命感をもって着実に前進させる

本多「この業務に着任した際は、正直なところ「難しい仕事を任された」と感じました。数学のように明確な答えが存在するわけでなく、答えに近づくための道筋もわかりません。前例がなく情報も限られた中で、手探りで考えることが求められます。さらに、深く関与するにつれ、より高度な専門知識が求められ、社内はもちろん社外の知見をお借りすることもありました。これらの試行錯誤の過程で、プロジェクトの意義が感じられるようになり、着実に前進している手応えも感じられました」

溝上「着任当初は、技術的にも非常に高度で複雑なプロジェクトだと感じました。進め方の指針がない中、自ら考えるか、他者にアドバイスを仰ぐしかありませんでした。難しい業務ではありますが、このプロジェクトがもつ意義、対外的な影響、そして世界的な注目度等を強く実感しています。事故現場に直接かかわる者としての責任を認識し、真摯(しんし)に取り組んでいます」

原子力発電所の安全対策等を担当した後、2016年から当取り組みに携わる溝上

原子力発電所の安全対策等を担当した後、2016年から当取り組みに携わる溝上

大和田「福島県出身の私は、事故が発生した当時、仙台の大学で学んでいました。事故の報道を通じて、「どうしてこうなったのか」という疑問と同時に、「廃炉業務に携わりたい」という思いが芽生え、進路を航空宇宙分野から原子力分野に変更した経緯があります。
入社3年目の駐在研修で未確認・未解明事項への取り組みに携わり、先輩が導き出してきた成果に感銘を受けました。不安よりもやりがいを感じる日々ですが、努力を重ねても、全てが確実に解明できるわけではなく、「現時点ではこれ以上の追求は難しい」という結論に至ることもあります。それでも、着実に解明できた時の達成感を思い描きながら取り組んでいます」

世界からの高い評価や取り組みへの期待を胸に挑戦を続ける

本多「事故対応の中で、消防車を利用した注水へと移行させる過程では、原子炉の圧力を下げる必要がありましたが、福島第一の3号機では、そのために主蒸気逃し安全弁を開けようと作業していた途中で、なぜか原子炉の圧力が自動的に低下したのです。
この現象について多角的なアプローチで検証した結果、弁が予期せず作動した可能性が明らかになりました。この解明により、安全弁が確実に作動できるよう、安全対策を講じることに繋がりました。
この解明内容について、海外で発表の機会を頂きましたが、発表内容について多くの方から好評を頂き、中には「これまで聞いた発表の中で最も優れていた」という方もいらっしゃるほどでした。これまで、検討結果は継続して、海外の専門家にもレビューを頂いており、2022年11月に公表した6回目の進捗報告についても「当社の活動を引き続き評価している。世界の原子力発電所の安全性向上に有益である」と評価して頂き、海外からも注目されています。こうしたことからも、事故の当事者である私たちが、解明と報告を継続していくことの意義と責務を感じています」

溝上「原子炉格納容器の内部調査では、遠隔操作が可能なカメラ等の調査装置を導入し、内部の情報収集を行っています。この調査装置の表面に付着する汚染物質を採取し、分析サンプルとして外部機関で分析することとなりましたが、高線量の汚染物質の外部への持ち出しや運搬に関しては前例がありません。そのため、サンプルを格納する容器の選別に始まり、安全かつ最適な運搬方法を模索する必要がありました。苦労はありましたが、原子力規制委員会からもサンプルに含まれた情報の重要性と分析の意義について言及して頂き、前向きに取り組むことができました。また、一流の研究者や専門家の知見を伺う機会に恵まれ、技術者として貴重な経験を積むことができたと感じています」

表面に付着する汚染物質をサンプルとして採取する様子。

表面に付着する汚染物質をサンプルとして採取する様子。

このような放射性物質運搬用の容器に入れ、社外機関へ運搬し、成分分析を行う

このような放射性物質運搬用の容器に入れ、社外機関へ運搬し、成分分析を行う

大和田「2号機のサプレッションチェンバーの圧力計の値が事故時に正しく表示されていなかった可能性が高く、その原因について検討を行いました。考えられる原因として、地震の揺れや他号機の爆発等の衝撃による機械的ダメージ、圧力の検出元となる配管の破断等による指示値の異常、バッテリーの異常や津波等による電気系統の障害、という3つの可能性を挙げた上で、これらを一つずつ検証し、消去法で絞り込んでいきました。結果として、津波による圧力計への浸水が、電気系統の障害を引き起こした可能性が高い、という結論に至りました。こうした結論に至ることは予想していましたが、憶測を超えてあらゆるデータとの整合性を確認し、論理的に裏付ける必要があり、非常に困難なプロセスでした。ちなみに、このような計器は原子炉建屋の地下に設置されていたことから、事故後は目視での確認が不可能でしたが、廃炉作業の進捗により今後は現物を目視で確認できるようになります。これにより、これまで得られなかった情報を取得できる、という可能性が高まっています」

柏崎刈羽原子力発電所で保安規定の管理等を担当した後、2020年10月から当取り組みに携わる大和田

柏崎刈羽原子力発電所で保安規定の管理等を担当した後、2020年10月から当取り組みに携わる大和田

廃炉の現場に残る事故の痕跡を原子力技術の安全と発展に活かす

本多「過酷な原子力発電所事故を起こしてしまった企業の一員として、事故の進展の解明に取り組む責任を感じ、使命感をもって取り組んでいます。私たちがこの取り組みを継続し、得られた成果を広く世に伝えていくことは、世界の原子力発電の安全性を高めることに寄与できると同時に、廃炉作業の進展にも役立つと考えています」

溝上「未解明事項が残っている状態は、技術者として課題に感じており、解明に向け着実に進むべく努力していきたいと考えています。廃炉の現場は未知の事象が存在する場として世界的にも注目されており、責任感とともに技術者としてのやりがいも感じています。廃炉作業が進み、将来的には格納容器だけでなく圧力容器内部の調査も可能になると思いますので、その際には得られるデータや情報を最大限に活用し、このプロジェクトをさらに前進させたいと思います。また、燃料デブリ取り出し作業では、格納容器内部のサンプル運搬と分析の際に得た知識と経験を積極的に活かしたいと考えています」

大和田「入社動機となった「なぜ事故が起きたのか知りたい」という思いは今も変わりません。事故の痕跡は、これまでは立ち入ることができなかった現場にいまだに多く残されている可能性があります。この現場からの情報収集は、私たちにしかできない重要な作業であり、その情報を有効活用することは、私たちの責務でもあります。
同時に、柏崎刈羽原子力発電所の再稼働に向けて励んでいる同僚たちは、事故から得た教訓をどのように活かすべきかを真剣に考えています。今後も社内で連携するとともに、外部の方々のご協力も頂きながら、原子力技術を安全かつ有効に活用できるよう、努めていきたいと思います」

ページの先頭へ戻ります

  1. HOME
  2. 東京電力報
  3. 原子力発電の安全性の向上へ
    事故進展の状況を解き明かす