ゆるぎない安全文化を築くために
世代を超えて語り継ぐ、原子力事故の事実と教訓
2021/07/02
東京電力グループは、事故の責任を胸に刻み、福島の復興や原子力施設の安全な廃炉、安全文化確立などの責任を、世代を超えて果たし抜くため、原子力事故の事実と教訓を伝える全社員研修を行っています。研修が行われる安全啓発施設「3.11事実と教訓」では資料を大幅に増やし、2020年10月に再整備を終えました。研修を担当する社員に、施設の概要と安全に対する意識・風土改革について話を聞きました。
東京電力ホールディングス株式会社
安全推進室 安全啓発・創造センター 所長
小池 明男
1987年入社。主に経営企画と営業を担当。2015年より社内外にある震災資料のアーカイブ化を始め、本施設の整備や研修運営に一貫して携わる。2021年より現職。
東京電力ホールディングス株式会社
安全推進室 室長
友永 和之
1997年入社。入社後、主に電力流通を担当。震災後、賠償や復興関連業務に携わる。2020年10月より現職にて、労働災害防止をミッションとする安全推進室の全体統括を行う。
東京電力ホールディングス株式会社
安全推進室 安全企画グループ 課長
石田 晴美
1996年入社。営業、広報、企画などを担当し、2018年より現職。安全企画グループにて、本研修を推進する安全啓発・創造センターとともに全社的な安全意識の向上に努める。
「安全とは何か」を考え続ける組織を目指して
小池「当社の福島第一原子力発電所で事故が起きるまで、会社風土や社員意識に『ここまで対策を講じたので、もう十分だろう』という安全に対するおごりと過信があった結果、取り返しのつかない事態を招いてしまいました。この過ちを二度と繰り返さないため、私たちが取り組むことは、現状に満足せず、安全性向上に向けて一人ひとりが絶えず努力し続ける企業文化の構築です。そこで、事故の事実と教訓を語り継ぎ、福島への責任や安全に対する社員一人ひとりの主体的な行動を促す場として、安全啓発施設『3.11事実と教訓』を設けました。
施設では、事故の原因や当社の安全文化面での問題、国民の皆さまへの影響、復興の課題など、事故に関わる幅広い情報を、客観的なデータに基づき、パネルや映像で説明します。ここで研修を全社員が受講し、講師の言葉や資料を通じて学んだ事実と教訓を、社員一人ひとりが正しく理解し、自分の言葉で語り、具体的な行動に移すよう取り組んでいます」
安全文化をつくりあげるために
小池「事故から3年ほど経ったころ、社内外から聞こえてきたのは、記憶が風化していくことを危惧する声でした。当時、まだ混乱が続く中、体系立った震災関連のアーカイブがなく、一刻も早く情報を取りまとめ、語り継ぐ場が必要だと感じました。事実と反省を正しく社員に伝え、社会やお客さまの声に謙虚に耳を傾けることで、当社で働く意義と責任を心に刻むことができるのではないかと考えました。
社内外に散らばる関連資料を研究所の皆さんとコツコツ集め、体系化するまでに約2年を要しましたが、2017年の末ごろにパネル約50枚からなるプロトタイプの展示が制作完了。2018年から、安全推進室が事務局となって研修プログラムを本格的に社内展開しました」
友永「私は2020年10月に安全推進室長に着任しました。本施設や研修を初めて目にした時、事故の教訓を伝えるだけでなく、『社員一人ひとりの安全意識の”根本”を見直す場である』と実感しました。その大きな意義を少しでも実現できるよう、安全啓発・創造センターを2021年1月に設置し、運営体制を整えました」
石田「従来、私たち安全部門は、原子力に限らず、発電から流通、販売に至るあらゆる業務における労働災害の防止に、もっぱら力点を置いてきました。
しかしながら、その労働災害の原因を調査分析していくと、多くのケースにおいて、『いつもやっているから大丈夫』『まさか自分には起こりっこない』というような、安全に対するおごりや過信があることが分かります。そこで、やはり、この労働災害を撲滅するためには、いかなる時も何よりも安全を最優先させる一人ひとりの意識と行動を徹底させること、すなわち全社の安全文化をしっかりと作り上げることが急務であり、それには、原子力事故の事実と教訓を全社員に伝え、『安全とは何か』を常に問い続け、安全の根本を見直すプロセスが、とても有効であること。さらに、このプロセスは実は当社のどの業務にも共通する大きな意味があることに気づきました」
本音の対話で深める気づきと行動意欲
小池「本研修では、講師の説明後に、社員一人ひとりの自発的な気づきを促す目的で、車座による対話の時間を設けています。車座対話では『二度と事故を起こさないために、一人ひとりがどう行動すべきか』と問いかけます。はじめに、『なぜ事故は起きたのか?』と原因の確認から始め、回答に対してなぜを繰り返し問いかけ、考えを引き出し、自分の言葉で語り、互いに刺激し合うことで、参加者がより本質的な気づきを得るプログラムです。対話の終わりには、参加者がそれぞれの思いを主体的な行動に移すため、安全や復興への誓いを仲間と宣言し合っています」
友永「研修は、第1段階のプログラムを2020年9月で全社員一巡し、第2巡目に入りました。受講後アンケートでは『有意義だった』との声が参加者から多く寄せられ、社員にとって価値のある活動だと実感できました。社外からも、社員の意識・行動改革によってボトムアップで企業風土を変える、有益な取り組みであるとの評価をいただくこともあります」
石田「安全や原子力事故について、当然、全社員が反省し、それぞれ考えがありますが、本研修のように突き詰めて深く考える機会が普段からあるわけではないのも事実です。参加した社員の声からも確認していますが、車座対話を通して普段、漠然と考えている形にならない意識を明確な気づきに昇華できている点で、効果的なプログラムとなっています」
東京電力で働くことの責任と覚悟
小池「当社が追求すべきことは、事故でマイナスの状態になったものを元に戻すだけではなく、さらに前よりもずっとより良いものに復興する姿勢です。当社自身、事故前の価値観や企業風土に戻ることはあってはなりません。事故の経験を負の記憶にするのではなく、何よりも社会の皆さまの安全と安心を守ることが電力会社の使命であるとの原点を再確認し、より良い未来を築くための糧として、前向きに取り組む必要があると感じます」
友永「本研修は事故をきっかけとした安全文化の醸成を目的としていますが、重要なのは安全の先にいる“人”に目を向けることです。私は2年ほど福島で復興に携わった経験があり、その際に痛感したのは『福島に住む皆さまお一人おひとりが、震災前よりも安心して幸せに暮らせるようにしなければいけない』ということです。事故を踏まえて安全に取り組むことはもちろん重要ですが、それだけではなく、事故に関わる一人ひとりに向き合う意識を決して忘れてはなりません」
石田「今年は『震災から10年』という節目として震災や事故が語られる場面が多くありました。しかし、被災された皆さまにとって年月は関係なく、今後も復興活動は続きます。私たちも、復興の責任を担う者としてそのことを忘れてはいけませんし、行動で示し続けなければならないと思います。そのため、昨日よりも今日、今日よりも明日の終わりなき安全追求に挑み続けます」
事実と教訓を語り継ぎ、広げていく
小池「震災から年月が経ち、事故当時は当社にいなかった社員も増えていきます。今後、当時を知らない世代にどうやって事故の事実と教訓を伝えていくかが、とても重要です。まず私たち講師にできることは、客観的な事実を伝え、きちんと疑問に答えること。その上で、『一人ひとりが、この課題にどう貢献するか』、それぞれの心に問いかけ続けたいと思います。事故以降に入社した社員は、福島復興や社会のためになりたいという強い志を胸に抱く者が多くいます。その真っ直ぐな熱意を大きく育てたいですね」
友永「一度の研修だけで当社に安全文化が根付くとは考えていません。すでに、研修の2巡目も始め、それと並行して管理職主導で研修の学びを各職場に展開していきます。そうやって蒔いた種が、それぞれの場所で組織を変えていくはずです。私自身も、安全に限らず、常により良い仕事のあり方について考え続け、成長したいと思いますし、それこそが東京電力で働く社員一人ひとりが目指すべき姿だと考えています」
石田「社会のインフラを支える当社にあって、『安全とは何か?』を考え続けることは、全ての社員に意義のあることです。本研修が安全意識の向上だけではなく、自身の仕事の軸を見つめ直すきっかけになることを願っています」
東京電力グループでは、新入社員の研修プログラムの一部で本施設での研修を実施しています。本記事の最後に、2021年度に入社した新入社員による、研修参加後のコメントをご紹介します。
これからを担う世代として語り継ぐ使命
東京電力エナジーパートナー株式会社
販売本部 南関東本部 法人第二営業グループ
小田 拓未
本研修を通して事故の事実を深く知り、また車座対話によって考えを深めることで、東京電力で働くことの責任をあらためて実感しました。私が所属する東京電力エナジーパートナーは、社会の皆さまへの顔になる役割です。今、福島で復興に取り組む皆さまの思いを受け止め、それを社会に伝えることも私の使命だと感じました。そのためにも、事故の事実にしっかりと向き合い、決して風化させてはいけない事実と教訓を語り継いでいきたいと思います。