資料館
それぞれのフィールドにおいて、自然との共生や環境保護活動などに精力的に取り組んでいらっしゃるオピニオンリーダーの方々との対談内容をご紹介いたします。
今回のゲストは探検家で、医師でもある武蔵野美術大学教授の関野吉晴さん。これまでの旅で出会われた方々とのふれあいで学んだこと、感じたことなどをお聞きしました。いつも自分のいる世界を外から見ると、いろんなことが見えてくるんですね。
<武蔵野美術大学教授>関野吉晴(せきのよしはる)
1949年、東京都出身。武蔵野美術大学教授、医師であり、探険家でもある。
93年、人類拡散の足跡約5万3000キロを、徒歩、MTB、カヤックなどで遡行する「グレートジャーニー」をスタート。10年の歳月をかけて成し遂げた。
- 丸木カヤックで極東シベリアの川を行く
- 竹内
- 関野さんは大学に入ってすぐ探検部をつくられたんですよね。
- 関野
- 自然も文化もまったく違う所に自分を放り込んでみたくて。
- 竹内
- 訪れた先々での印象的な出会いをいくつか教えてください。
- 関野
- アマゾンのマチゲンガ族の“トウチャン一家”とは30年以上のつきあいです。だいたい初めて会う人には「あなたはどこの国の人?」と聞かれるんですが、彼らはそもそも自分たちがペルーに住んでいるということも知りませんでした。国という概念がないんです。生活の中心である川の流域が彼らの世界で、そこについては何でも知っている。だから彼らの質問は「どこの川から来たの?」で、僕の答えは「多摩川」だったわけです。共通の地図を持たない人との出会いは印象的だった。
- 竹内
- 確かに世界地図は世界共通だと思いますよね(笑)
- 関野
- それからアラスカのハンターとの出会い。最初彼が「われわれは大地に生かされている」と言った時は「キザなこと言うな」と思ったんですが、生活を見ていると、なるほど本当だと納得しました。植物は大地から水や養分を吸い上げ、太陽のエネルギーと二酸化炭素で育ちますよね。それを草食動物が食べ、それを肉食動物や人間が食べる。だから植物がなければ生きていけません。人間が生きている基本は植物であり、大地があるからできることなんです。
- 竹内
- なるほど。私たちが彼らの生活、生き方のマネをすることはできないけれど、学ぶことはたくさんできそうですね。
- 武蔵野美術大学近く、玉川上水沿いの遊歩道で
- 学生たちと始めた大学での野菜づくり
- 竹内
- 旅を終えて日本に帰ったときに、感じることはありますか?
- 関野
- やっぱり自分の家がいちばんくつろげますよね。 それは、みんなが同じ文化に住んでいて、“当たり前”を共有しているからです。いちいち説明しなくても、暗黙の了解のうちに生きていられるからすごく楽ですよね。楽なんだけど、しばらくいると退屈になるからまた旅に出るんです。
- 竹内
- 当たり前を共有している世界から外に出てみるといろんな発見があるでしょうね。自分たちは今の生活を当たり前だと思っているけど、もしかしたらとってもおかしなことをしているのかもしれない。そうやってちょっと違う目で見るということはとても大切なことですよね。
- 関野
- アマゾンのマチゲンガ族の村では、だいたい全ての物の材料がわかる。でもこの部屋の中を見回すと、何からできているのかわからないものばかり。そうしたことにも違和感を感じるようになりますよね。自分たちの食事を考えても、どこから来たのか、どうやって作られたのかわからないものばかりを食べている。それはやはりおかしいなと思う。自分で食べる野菜ぐらいは、自分で作ろうと。だから大学の空き地で学生達と野菜を作り始めたんですよ。無農薬野菜ですよ。肥だめも作ったんですが、それは肥を持ってきてくれる人がいなかったからダメだった(笑)。
- 竹内
- プランターでできる野菜もあるから、私も始めてみようかな。
- 竹内
- 国内はあまり回られていないんですか?
- 関野
- いや、トレーニングをしなきゃならないので、年に3分の1は山に登っているか川を下っているかしています。ただ、外国ではそこに住む人に興味を持ってつきあってきたのに、自分が生まれ育った日本の自然のなかで暮らしている人の暮らしぶりをあんまり見ていないんで、最近は山麓の人や流域の人とつき合うようにしているんです。そのなかにはマタギや鷹匠もいます。彼らは自然や野生動物を本当に愛していて、自然環境に負荷をかけない質素でつつましい生活を送っています。
- 竹内
- 自然に近い暮らし方、自然の一部として生きてきている方から学べることは多いですよね。自然とつき合うのなら、自分も本当に勉強して、考えて、たまには自分の立ち位置と違うところに立って見ることが大事なんだなあと思います。それは怖いことでもあるし、またすごく責任も感じます。ところで関野さんは尾瀬に行かれたことはありますか?
- 関野
- まだ行ったことがないんです。
- 竹内
- 私は尾瀬の自然保護の仕事をさせていただくようになって、なにがいちばん嬉しいかというと、地元の方たちにつき合っていただけるようになったことなんです。尾瀬の場合、方法論で意見が食い違うことはあっても、地元の方たちの「自然を守るぞ」というベクトルは一致していて、それはすごいことだなぁって思います。ステキな方がたくさんいらっしゃるので、今度ぜひ足を運んでください。今日はありがとうございました。