資料館
それぞれのフィールドにおいて、自然との共生や環境保護活動などに精力的に取り組んでいらっしゃるオピニオンリーダーの方々との対談内容をご紹介いたします。
ゲストは、プロスキーヤーであり冒険家でもある三浦雄一郎さん。70歳でエベレストに登頂し、2年後の75歳に再び別ルートからの登頂にチャレンジしようとしている三浦さんですが、若いころは山スキーを楽しむために何度も尾瀬に足を運んでいたそうです。今回、数十年ぶりに尾瀬を訪れたという三浦さんに、初夏の尾瀬を歩きながら、ご自身の冒険のことや環境問題のこと、尾瀬への想いなど、いろいろお話をおうかがいしました。
<プロスキーヤー>三浦 雄一郎(みうら ゆういちろう)
1932年生まれ。世界七大陸最高峰からのスキー滑降を達成するなど、数々の記録を持つ冒険スキーヤー。
2003年、70歳にしてエベレストに登頂(当時は世界最高齢)。75歳を迎える08年に2度目の登頂を目指す。
- 尾瀬での自然保護活動の取り組みを三浦さんに解説
- 竹内
- ご本を拝読して驚いたんですけど、65歳のときにはご自宅の裏にある500mぐらいの山にも登れなかったって本当ですか?
- 三浦
- 4、5年、山をサボって飲み放題、食べ放題という暮らしをしていて、階段を上るのもイヤになるくらい太ってました。
- 竹内
- でも「70歳のときにエベレストに登るんだ」という目標を立ててトレーニングをされて、食事を変えて、ほんとうに登っちゃったわけですよね。
- 三浦
- 60歳のときにもうダメかといったん諦めて、65歳近くに思い直して、5年がかりで小さな一歩を積み重ねてきたわけです。
- 竹内
- 環境問題にしても、65歳の時点で掲げられた「70歳でエベレスト」という目標にしても、ものすごく大きなテーマじゃないですか。でも、諦めずに少しずつでも続けることで、「あ、なんとかなるんだ」ということを強く感じました。
- 三浦
- ゴミをひとつ拾うことが、環境の美化につながっていきますからね。環境問題のいちばんの基本は、ただ遠くで「環境が、環境が」と言っているのではなく、実際に自然のなかに溶け込んで、自然の素晴らしさを実感したうえで取り組むことだと思うんです。
- 竹内
- 故郷の木が伐られている風景を想像すると、ほんとうに痛いじゃないですか。そういう痛みから、「これはいけない。守らなければ」という気持ちが湧いてきますものね。もちろんしっかりした知識も必要だけど、強い気持ちがないと続かないかな、と思います。
- 三浦
- 美味しい水、すばらしい空気といったものをまず自分で体験してみて、みんなといっしょに自然を守っていきたいっていうことになるんじゃないでしょうか。
- 小至仏山頂をチョモランマ山頂だと想像してバンザイ
- ワタスゲの白い果穂が幻想的な風景を醸し出す。 牛首のベンチで三浦さんが語る
- 竹内
- 今度は75歳でまたチョモランマ登頂という目標を立てられているそうですが?
- 三浦
- とにかくやるだけやってみようと。不可能と思えることでも、計画を立て、いろんな方法を考えて諦めないでやっていけば、夢は実現できる――今度もそうありたいと思って。
- 竹内
- ぜひ成功させていただきたいですね。相当ハードなトレーニングをされているんですか?
- 三浦
- ふだんはできるだけのんびりと自然を感じたり、ここが目標とするチョモランマだと想像しながら歩くようにしています。そういうイメージトレーニングも大切なんですよ。それにしても、尾瀬はこれだけ緑に溢れ、まさに今できたての酸素が体に染み込んでくるようですよね。つい1ヶ月ほど前まで、ヒマラヤやチベットのほとんど砂漠のような世界にいたので、この世の天国のように感じられます。
- 竹内
- たしかに海外から帰ってきたときに、どうして日本の緑ってこんなに包み込むように優しいのかしらって思います。
- 三浦
- ゆったり癒されて、心も体もとっぷり緑の温泉に浸かっているような雰囲気っていうのは、アンチエイジングという点からもいちばんじゃないですかね。
- 竹内
- ほんとうに日本に生まれてよかったなあって思うし、この自然を誇りにも思います。
- 三浦
- 我々の世代にとって、尾瀬というのは「夏が来れば思い出す。遥かな尾瀬」という歌の世界が子供心に印象づけられていて、「一度は来てみたい」と憧れる場所なんです。日本の豊かな自然を象徴する故郷のような場所だと思います。
- 竹内
- そういうところがいつまでも変わらずにあるということは、大事なことですよね。尾瀬がいつまでも日本人の憧れの場所であるようにがんばらないといけませんね。今日はどうもありがとうございました。