100年続いた発電所を、次の100年へつなぐ。
TEPCOを代表する大型水力発電所のリパワリング工事とは

2021/02/10

00年続いた発電所を、次の100年へつなぐ。

富士山の西側の山間にある、東京電力リニューアブルパワー株式会社 早川第一発電所。大正12年(1923年)に運転を開始したこの大型水力発電所では、より効率的な発電を目指してリパワリング(設備強化)工事を実施し、11月に運転開始。5機あった発電機を3機に減らしながらも、合計発電出力を2,900kW増やし、保守業務の効率化を含め大きな改善を実現しました。
大規模な台風災害に見舞われても道路の仮復旧まで自ら行い、4年間にわたる工事を成し遂げた彼らの原動力は何だったのでしょうか。

東京電力リニューアブルパワー株式会社
駒橋事業所 発電保守グループ

上田 浩史

1987年、東京電力株式会社入社。いくつもの発電所修繕に携わり、豊富なノウハウを保持する水力発電技術者。

上田 浩史

東京電力リニューアブルパワー株式会社
水力部 水力工事センター
工事第三グループ

松澤 貴士

2010年入社。先輩方から受け継がれた技術を次世代につなぐ、若手土木技術者。水力発電設備の保守点検に長く携わる。

松澤 貴士

 

リパワリング工事とは?

経年劣化した主要部品の更新や新たな設備の追加により、出力を増強するなど発電所設備を強化すること。国内では再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)が始まって8年が経過したことから、技術革新に合わせてリパワリング工事行うケースが小中規模発電所を中心に増えてきている。

 

効率化と出力増強を図る大規模工事に着手

上田「早川第一発電所は計5台の発電機で51,200kWの発電を誇る、東京電力グループの中でも大型の水力発電所です。大正12年の運転開始から約100年経っている発電所であり、特に開所当時から動いていた1〜4号機は古い設計だったため水車の効率が悪く、近々、4台のうち1台の大型修繕が検討されていました。

従来は単機での発電出力が8,000kWほどの発電機4機を並べて発電していましたが、発電機の数がたくさんあると、その分メンテナンスの手間がかかり、人手も必要になります。そこで今回は、発電効率の向上とともにメンテナンスの効率化も図るため、1・2号機をより発電出力の大きな新1号機に置き換えて4号機を廃止。水車の分解・点検手入れを行ったばかりで、状態が良好な3・5号機は、そのまま残すことにしました」

松澤「新1号機・3号機・5号機の発電出力は合わせて54,100kWです。新1号機は1台で従来の3台分の発電ができる大型のものなので、その発電機に水を送る水圧鉄管も、より直径が大きなものに取り替える必要がありました。

そこで、山の斜面沿いにある長さ400m以上の水圧鉄管を2本撤去し、新1号機の水圧鉄管を設置することに。工事は40以上に分解された水圧鉄管をワイヤークレーンで吊り上げ、斜面の上で組み立てるという大規模なものになりました。私は水圧鉄管を主に対象とした土木工事を、上田さんは発電機の電気工事を中心に担当しました」

新1号機の水圧鉄管を吊り込む作業の様子

新1号機の水圧鉄管を吊り込む作業の様子

工事完了後の水圧鉄管。左の太い水圧鉄管が新1号機につながっている

工事完了後の水圧鉄管。左の太い水圧鉄管が新1号機につながっている

  リパワリング前 リパワリング後
出力 51,200kW 54,100kW
発電機数 5台 3台

道路の復旧も自らの手で 大規模台風災害からの早期工事再開を目指して

上田「当発電所は出力が大きいため、工事中に発電を一切やめてしまうと電力供給に影響が出てしまいます。そこで、3号機と5号機を動かしながら工事を行うことになりました。特に3号機は、同じ建物内で他の発電機の撤去や据え付けを行うことになったため、工事が発電運転に影響しないよう細心の注意を払いました」

約100年動いている3号機(手前)と新1号機(奥)

約100年動いている3号機(手前)と新1号機(奥)

新1号機内部(水車)

新1号機内部(水車)

松澤「発電機、水圧鉄管ともに取り替える大規模なリパワリングだったため、工事には多くの協力会社の皆さんと、各工区間や工事工程の調整などで綿密に連携する必要がありました。私たちはその調整役である施工管理という立場のため、苦労も多くありました。各社ごとに異なるやり方や安全に関する意識を取りまとめ、何よりも安全に工事が進むよう気を遣いました」

上田「工事期間を通じて何よりも大変だったのが、想定外の台風災害でした。水圧鉄管を取り替え、水車発電機本体の基礎部分の構築も終えて、いよいよ本体の上部を取り付けようとした2019年10月、大型の台風19号が本州に上陸しました。台風19号が大雨による河川の増水を引き起こし、その影響で、工事用の資材や機材を搬入するための川岸の道が50〜60mにわたって崩落してしまったのです」

松澤「私は発電所近くの寮に住んでいたので、台風当時には外に出て、護岸の崩落を目の前で見ていました。『これから工事はどうなるんだろう』と絶望的な気分でした」

上田「道路や河川に関する工事は公共工事となるため、一般的に工事への着手には申請等の所定の段取りがあります。ただ、道路の復旧はリパワリング工事の期間にも影響するため、すぐに協力会社の皆さんと、道路や河川を管轄する山梨県や国土交通省と協議しました。結果、道路の仮復旧を自分たちで行うことで工事再開時期を早め、工事全体としては3カ月遅れにとどめることができました」

護岸崩落前
崩落後

護岸崩落前(左)と崩落後(右)。変電施設の手前まで護岸が崩落してしまった

協力とワクワクをもとに 前例のない工事をやり抜く

上田「水力発電のリパワリングはFIT(固定価格買取制度)の対象になることもあり、他社でも中小の水力発電所では盛んに工事が行われています。当発電所は発電出力が30,000kWを超える大型の発電所のためFITの対象にはなりませんが、近年のリパワリングの流れの中ではかなり先行している事例です。だからこそ、私たちにとっては前例やノウハウがない中での取り組みとなりました。この工事は協力会社の皆さんの支えなしには完遂できなかったと思っています」

松澤「突発的な台風災害も起こり、一時はどうなることかと思いましたが、協力会社の皆さんは道路の仮復旧工事に前向きに取り組んでくださり、新技術を提案してくださることもありました。皆さんの協力があったからこそ、2020年内の運転開始にこぎつけられたと思います。

今回のリパワリングによって発電出力が2,900kWアップすると、再生可能エネルギーの有効活用はより進みます。まさにTEPCOの「稼ぐ力」につながるという希望が私のモチベーションになっていました。何より、自分たちの手で新しく設備をつくる貴重な経験は楽しく、ワクワクしながら臨めました」 

  • 協力とワクワクをもとに 前例のない工事をやり抜く(1)
  • 協力とワクワクをもとに 前例のない工事をやり抜く(2)
  • 協力とワクワクをもとに 前例のない工事をやり抜く(3)

設備が語る先代技術者の想いを次の世代に受け継ぎ、水力発電事業を発展させる

松澤「水圧鉄管の交換にあたって基礎コンクリートの状態を確認したときに、約100年前からほとんど劣化していないことには驚きました。先代の技術者たちが丁寧につくり、設備に愛情をもってメンテナンスしてきた証拠だと思います。先輩方に敬意を払うとともに、私たちも、これから100年続く設備になるよう、メンテナンスに注力していく必要があります。また、今回の経験を他の水力発電所でのリパワリングにも活かしていきたいです」

設備が語る先代技術者の想いを次の世代に受け継ぎ、水力発電事業を発展させる(1)

旧2号機の水圧鉄管の基礎コンクリート(手前青枠)。約100年の間、ほとんど劣化せず水圧鉄管を支え続けてきた
その隣には今回作られた新しい基礎コンクリートが並ぶ(奥赤枠)

上田「私は入社して30年余りになりますが、リパワリングを初めて経験しました。今、当社では水力発電のリパワリングによって効率アップやコストダウンに力を入れ、より利益の高い事業に変革しているところです。私もまだまだ今回の工事で新たに得た知識や経験を活かし、再生可能エネルギーの有効活用に今後も貢献していきたいです」

設備が語る先代技術者の想いを次の世代に受け継ぎ、水力発電事業を発展させる(2)

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