世界を魅了するINZAIの
激増する電力需要を支える挑戦
2024/07/30
国内最大規模のデータセンターの集積が進み、「世界のINZAI」と注目を集める千葉県印西市。自治体によるデータセンター誘致や、地域開発の急速な進展により、2027年度の電力需要は、2017年度の6倍に達すると見込まれています。東京電力パワーグリッド株式会社(以下、PG)は、これらの電力需要に対応するため、千葉印西変電所および地中送電設備の新設工事を実施しました。工事では、最新機器の導入や工法の工夫・改善により、通常の新設工事と比べ約2倍のスピードで工事を推進し、2024年6月に運転を開始するという目標を達成。PGとして前例のないスピード工事に携わった4名の社員に、この工事の意義や想いを聞きました。
※所属・肩書は2024年6月時点の情報です
東京電力パワーグリッド株式会社
工務部 送変電建設センター 千葉印西管路新設グループ マネージャー
渡邉 謙一
1996年入社。地中線建設所(現、送変電建設センター)に配属され、基幹系シールド洞道工事、総括業務に携わった後、本社業務システム、福島第一廃炉工事、地方系管路工事などを経て、2022年7月より現職。2022年7月、洞道の本線の完成時期に着任。9年ぶりの基幹系シールド工事に携わり、変電所間シールド洞道建設の他、お客さま供給に向けた2カ所のシールド洞道工事に関して、安全・品質など総括的立場にて工事業務運営を担当。
東京電力パワーグリッド株式会社
工務部 送変電建設センター 千葉印西管路新設グループ
出雲 力斗
2011年入社。送変電建設センターに配属され、東日本大震災による緊急送電線設置のため、橋梁(きょうりょう)添架管路工事を担当。その後、東京都内でのシールド工事調査・設計業務や、資材調達センターでの契約業務を経て、2019年7月より現職。洞道の新設工事計画当初から同工事を担当。
東京電力パワーグリッド株式会社
工務部 送変電建設センター 地中送電整備第二グループ マネージャー
今野 卓也
1993年入社。当時の銀座支店港電力所地中線課に配属され、港区管内の地中送電設備の保守に携わる。その後部署が変わり、地中送電線の新設・引替工事、緊急電源確保のための送電線設置工事(東日本大震災関連)、資材調達センターで契約業務を経験。2021年4月より現職。工事開始直前に着任し、ケーブル敷設工事の統括・管理を担当。
東京電力パワーグリッド株式会社
工務部 送変電建設センター 千葉印西変電所新設グループ
山口 大夢
2009年入社。成田支社成田制御所変電保守Gに配属され、設備保守業務を担当。その後、500kV変電所にて運転業務に従事、千葉建設センターにおいて工事設計業務を経て、2019年7月より現職。計画当初より、千葉印西変電所の新設工事を担当。
千葉県印西市の千葉ニュータウンエリアは、東京都心への交通利便性から、子育て世代が増加する住宅都市として急速に成長しています。また、東京と成田国際空港の中間に位置し、空港からもアクセスが良いこと、関東平野の中でも活断層がなく、下総台地の強固な地盤を持つことから、便利で安全な産業地として注目され、近年、世界のデジタル産業を牽引する海外企業のデータセンターや、大型の物流施設が次々と建設されています。このような急速な発展に伴い、地域の電力需要も飛躍的に増加し、2027年度の電力需要は2017年度の6倍に達する見通しになっています。
そこで、千葉印西エリア電力供給プロジェクトを立ち上げ、まず2019年4月に最先端デジタル技術を駆使することで設備保全の高度化などを実現した、超高圧変電所としては国内初のデジタル変電所となる「千葉印西変電所新設工事」に着手。次に、新京葉変電所(千葉県船橋市)から275kVの超高圧を送り込むための10.1kmの「洞道新設工事」および「地中ケーブル敷設工事」が着手されました。この3つの大規模工事を中心に、電力需要に間に合わせるため、2024年6月の運転開始を目指し、PGが行う同規模の新設工事と比べて約2倍のスピードで推進してきた前代未聞のプロジェクトです。
前例のないスピードが求められる大規模工事への挑戦
渡邉「私が現職に着任した2022年7月当時、すでに10.1kmの洞道本線は完成間近でしたが、事前に本プロジェクトの規模や意義、挑戦については聞いていました。そのため、当初から本プロジェクトに参加できることに大きなやりがいを感じるとともに、「やるしかない」という責任を感じました。洞道工事に遅れが生じると、ケーブルの敷設工事をはじめ多方面に影響が及びます。そのため、顕在化しそうなリスクに対しては早期にプロジェクト関係者と共有し、ご協力いただきながら検討・対策を進めてきました。たとえ小さなトラブルであっても、不具合が発生した際には、その都度、原因を究明し、再発防止策を講じるとともに、他の工事担当者や施工会社と協議のうえ調整を行うことにより、影響を最小限に抑えることに努めました。」
出雲「私たちが担当した洞道工事は2019年4月に計画され、2020年4月に着工しました。本プロジェクトの変電所新設工事の着工が2021年8月、ケーブル敷設工事の着工が2022年10月でしたので、他の工事の先頭を切ってスタートしたことに大きな責任とやりがいを感じながら、まずは地域の方々との関係づくりや、市役所の方々との関係構築に努めました。具体的には、地域の皆さまに工事へのご理解をいただけるよう環境に配慮した設備設計をするとともに、丁寧な事業説明を重ねました。また、新設する変電所の運転を2024年6月に開始するという目標を達成するため、協力会社さまと会社や組織の垣根を越えて本音で議論し、知見を出し合うことで、スピード工事を実現する計画の具体化を進めました。」
今野「このような規模の工事は、計画から竣工まで一般的な工事では4年ほどの工期が必要とされていますが、今回はその約半分の約2年で工事を完了することが求められていました。そのため、通常は洞道が完成してからケーブル敷設工事に着手するところを、洞道工事とケーブル敷設工事を同時並行で進めることになりました。また、ケーブル敷設班を最大3班、ケーブル接続班を最大8班に増班し、工事を進めました。さらに、新設の洞道のため、排水、照明、換気扇などの付帯設備の設計と設置工事、セキュリティー設備の設置工事があり,その他工事も含めて工程調整に苦慮しました。全てにおいて前例のない工事だと思います。」
山口「新設された千葉印西変電所の特徴は、第一に、PG初のデジタル変電所であること、第二に、ガス絶縁変圧器を採用していることです。まず変電所のデジタル化に向けた設計では、従来の変電所では多数必要だった監視制御用のメタルケーブルを、光・LANケーブルに置き換えることで、ケーブルの敷設・接続・試験の期間を大幅に短縮することができました。また、屋外変電所の多くは油絶縁変圧器を採用しておりますが、ガス絶縁変圧器は油絶縁変圧器と異なり、不燃性ガスのため延焼の恐れがなく、油流出を防止する「防油堤」の建造も省略できることから、安全性の追求、環境への配慮、工数削減の3つの課題に対応しています。これらの設計と仕様を採用することで、従来の275kV変電所新設工事と比べて、工期を約25%短縮することができました。」
重層的な問題を新技術と会社や組織の枠を越える綿密な連携で打破
渡邉「新京葉変電所から千葉印西変電所までの10.1kmの洞道工事では、通常の約半分の工期で完了させるために、地盤を掘削するシールドマシンを2倍の4台に増やして進めました。また、トンネルの壁となるセグメントに鉄筋コンクリート製セグメントの他、鋼材と中詰めコンクリートの合成構造であるHB(ハイブリッド)セグメントを採用し、従来の鋼製セグメントでは、防錆のためにトンネル掘削後に施工していた二次覆工コンクリートを省略することでより工程短縮を図りました。さらに、調査・設計・施工の同時進行、立坑施工の工夫など、施工会社さまとの連携の下、あらゆる工夫を取り入れることにより、計画どおり2022年6月に10.1km区間のトンネルを完成することができました。着工から約2年2カ月でのトンネル貫通は、PGで実施した都市部のシールド工事としては最高レベルのスピードを誇る工事です。」
出雲「短い工期を実現させるためには、シールドマシンの性能が極めて重要です。一般的に高速施工には「泥水式」が有利ですが、事前の地質調査の結果、今回の掘削対象には崩壊性の高い砂質土(さしつど)が混在していることが判明しました。均一な砂質土に対して「泥水式」では切羽(トンネルを掘削する先端の地盤)が安定しないため「泥土圧」が適していますが、「泥土圧」は土壌内に含まれる可燃性ガスが作業空間内に発生する可能性があります。そこで、「泥水式」と「泥土圧」を臨機応変に選択できる「泥水泥土複合式」のシールドマシンを採用し、両者の特長を活かしたスムーズな掘削を実現しました。さらに、シールドマシンの予備部品を現場に常備しメンテナンスの時間を最小限に抑えたことで、施工の高速化を可能にしました。マシンの発着地点においても、出水リスクを低減させる工夫を施すなど、工事の遅れにつながる要因を予め一つひとつ洗い出し、あらゆる対策を講じました。」
今野「275kVという超高圧ケーブル敷設工事は、私にとって初めての経験でしたし、通常工期の約半分である約2年で完成させるプロジェクトは、かなりの挑戦だと感じました。ケーブル敷設で一般的なのは、モーター駆動のローラーにケーブルを乗せて敷設する工法ですが、この工法では各所に電源が必要であり、ケーブルの脱落を監視する作業員も配置しなければなりません。そこで今回は、新設洞道の線形がほぼ直線であることを利点として「洞道ウインチ工法」を採用、その結果監視のための作業員を他の区間へ配置でき、効率的な工事を進めることができたと思います。」
山口「変電所新設工事はコロナ禍と重なり、関係者の皆さんと対面での打ち合わせがかなわず、最初は意思疎通が難しい面もありました。また、約3万人の作業員の中には、新型コロナウィルスの罹患(りかん)者や濃厚接触者も出ましたが、そうした事態も想定して工程を組むとともに、協力会社さまと綿密に連携し、施工班間の隔離、日々の体調管理の徹底、少しの異変でも検査を実施するなどにより、工期を遅らせることがないよう対策しました。また、夏場の工事では熱中症が懸念されましたが、施工会社さまが現場近くに休憩所を設けるなどの対策をしてくださいました。関係各社の皆さまには、こうした工夫と配慮をしていただいた結果、計画どおりの工期で運転を開始できたことに大変感謝しております。」
知見の継承と新技術で支える電力の安定供給
渡邉「本プロジェクトは、PGで実施している同規模工事の約半分の工期で完遂できたことはもちろん、工事に当たったPG社員の大半が、新入社員から入社4年目程度の若手社員であったことの意義も大きいと感じています。若手社員が異例の条件下で、従来とは異なる技術や機械を活用し、創意工夫と新しい設計思想に取り組んだこと、そしてその実績をマニュアルに反映する業務にまで携わった、これにより、新たに得た知見と技術を、PGにとっての大きな財産にすることができます。また、施工会社さまとの協働により論文として発表することとなり、土木工事の発展にも寄与することができました。本工事が「崩壊性の高い砂地盤を超短工期で貫くシールドトンネルの築造」という件名で令和5年度土木学会技術賞を受賞できたことは、大変光栄に感じております。」
出雲「大幅な工期短縮には、さまざまな目的があります。しかしながら、送配電事業に携わる私たちにとっては、社会に安定した電力を安全に届けることが最大の使命であり、重要な目的だと考えています。そのため“工期短縮”は、できるか否かではなく、電力の安定供給を果たすために必ず達成すべき任務だ、という意識で取り組んできました。協力会社さまを含め、工事に携わった延べ約19万人もの方々が「2024年6月5日の運転開始に間に合わせる」という共通の目標に向けて、強い意志で進んでこられたことに、大きな意義を感じています。また、工事現場には自治体関係者、関連企業や保育園児など約1600名の方々に見学していただき、工事へのご理解と後押しをいただけたことも嬉しく感じております。」
今野「約2年という工期の中では、トラブルが発生したり、一つの工事箇所で複数の作業が重なったりと、非常に厳しい局面が何度もありました。また、コロナ禍で対面接触が制限されることもありましたが、メンバーが悩みをため込まないよう、日頃から声をかけて何気ない会話をするなど、発言しやすい雰囲気づくりを意識しました。また、ご協力いただいた施工会社さまをはじめとする全ての関係者が、運転開始期日までの工事完了を共通のゴールとして心に刻み、高い意識を持ち続け、会社間・組織間の垣根を取り払って行動していただけたことで、さまざまな問題を乗り越えていくことができました。この経験は、私はもとよりPGにとっても大きな財産になったと思います。この工事に関わった皆さまに深く感謝しております。」
山口「当初はゴールが遠く感じられましたが、終わってみるとあっという間の5年間でした。電力需要の増加に対応するための工事は、PGとして24年ぶりであり、さらにデジタル変電所としては初めてとなる新設工事に携われたことに、やりがいと誇りを感じています。極めて短い工期という条件下で、設計段階から安全と効率化の徹底や、国際標準に基づくデジタル化のための設計や仕様に取り組んだ知見や経験はとても貴重ですので、今後のデジタル変電所建設に存分に活かしていきたいと考えています。」