地中を走る世界最大容量の巨大な送電線。
都市の機能を私たちが支える。
2017/05/19
私たちの使っている電気がどこを伝わって自分の元へと届いているのか。普段は考えることもないこの答えが実は、「巨大な地中送電線が都市中に張り巡らされ、そこから届けられている」と聞いたら驚いてしまうかもしれない。暮らしをかげから支える送電線。その非日常的な地下空間の様子と、そこで働くプロたちの仕事ぶりについて紹介しよう。
東京支店 江東支社
地中送電保守グループ
保守リーダー 船渡泰祐
東京電力の企業内職業訓練施設を経て1981年入社。30年以上にわたって地中送電設備の保守、点検を続けている。社内の研修講師を勤めていた過去も持つ。
東京支店 江東支社※
地中送電保守グループ
長南優也
2014年入社。入社一年目から江東支社に勤務。地中送電保守グループとして活躍している。
※所属は取材当時
電気のロスを最小限に抑える
巨大な送電線網
家庭に、仕事場に、街中に、人が生活するいたるところに……。毎日の暮らしを当たり前のように支えている電気は、巨大な発電所で24時間絶え間なくつくられ、電気の通り道である送電線などを伝ってありとあらゆる場所へと届けられている。
送電線と聞いてパッと頭に思い浮かぶのは、たとえば山中に連なる大きな鉄塔かもしれない。鉄塔と鉄塔の間が電線で結ばれている……。そんなイメージを持つのではないだろうか。しかし、オフィスビルなどが立ち並ぶ街中で鉄塔がどっしりと居座る様子を目にすることはない。都心部では送電線はどこにいってしまっているのだろうか。
都内で地中送電線の保守業務などを手がけている船渡さんは、「都市部の送電線は地中送電線として、地面の下を通っているんですよ」と笑顔で話す。
送電線が走る地中のトンネルは、まるでSF映画のワンシーンのよう。黒いパイプのようなものが送電線で、発電所と変電所やお客さまなどを繋いでいる。絶縁体で包まれているので触れても感電することはない。
船渡「送電線の役割は発電所でつくられた電気をなるべくロスを少なく利用者の皆さまのところへお届けすることです。ロスを抑えるにはどうすればいいか。そのためには、電圧を高くして一度にできるだけ多くの電気を送ることが重要になります。東京電力パワーグリッド株式会社は、世界で初めて導入した最大電圧50万Vの地中送電設備を備えています。それらを使って、効率よく電気をお届けしています。」
送電のために屋外に並んでいる鉄塔“架空送電鉄塔”は空に架かる電線で電気を送る鉄の塔と読むことができる。都心でそんな架空送電鉄塔をあまり目にしない理由の一つは、人口密集地域や商業地区、高層地区などには十分な建設スペースの確保が困難であることが挙げられる。
土地を有効活用するという観点などから、都市では地中送電線が主流となっているのだ。
船渡「架空送電鉄塔を建てて電気を届けるか、地中送電線で電気を届けるか、二つの方法がありますがどちらもメリットとデメリットがあります。架空送電鉄塔は屋外ですから、台風や積雪など自然災害の影響を受けやすい面があります。そのかわり建設コストは抑えることができ、メンテナンスもしやすいのが特徴です。一方、地中送電線はビルなどの建物の下に送電線を通すため、自然災害の影響を受けにくく、供給信頼度が非常に高いです。また上部の土地の有効活用が可能なことがメリットです。その反面地中送電線の敷設には一般的により大きな建設コストが必要になります。また、普段、直接目にすることができないため、メンテナンスにも手間がかかります。」
二つの選択肢はあるものの、絶え間なくビルが立ち並ぶ都心部ではこれからの電力は地中送電線が主流となる。では、具体的にはどのような設備なのだろうか?
発電所から変電所まで、都市の地下深くを走る送電線。
地中送電線は地中電線ケーブルとそれを収容する管路や洞道(トンネル)などからそのシステムが構築されている。最大電圧50万Vの地中送電線を導入したのは東京電力が世界初である。
この50万Vの地中送電線は、新京葉変電所と新豊洲変電所を結んでいるのだが、送電線の走る長さは距離にして約40km。送電線が敷設されている洞道は直径が約7.4mあり、このような大きな洞道が都心の下8~18mを走っていると想像してみると、都市を支える設備の規模の大きさが少し実感できるのではないだろうか。
船渡「東京電力の洞道は約500kmあり、そのほとんどが都会の地下に走っているんですよ。洞道の中を歩いていけば、東京都内から神奈川県にある発電所まで歩いて行くことだってできるんです。」
都心のすみずみにまで電気を送っているという充実感。
地中送電線に関わる船渡さんや長南さんの仕事は、主に保守業務と工事業務に分かれている。
長南「地中送電線の保守、つまり維持と管理を行っています。たとえば、実際に洞道内を歩きながら地中送電ケーブルや、送電すると熱をもつケーブルを冷却する設備の目視点検や測定器を用いた設備の劣化状況の診断、異常箇所の補修を行っていますが、このような点検等は法令や社内マニュアルによって定められていて、年間の点検スケジュールを策定して計画的に定期的に点検を行っています。」
船渡「また、事務所には地中送電線の情報を24時間監視するシステムがあり、トラブルなど発生状況についてのチェックも行っています。たとえば、地中送電ケーブルの事故やケーブルの状態を監視する機器の不良や排水ポンプが停止してしまい、洞道内に雨水が溜まる等のトラブルは、このシステムから監視できるようになっているので、なにかあればすぐに対処できるようにしています。」
人気のない地下の洞道内は、写真ではしんと静まり返っているように見える。しかし実際は送電線の中は巨大な電力がうねっており、低くこもったような音が足元から湧きあがっている。
都心のエネルギーを支える大きな仕事をしているという実感は、ときに充実感につながり、また、背筋の伸びる思いがするという長南さん。「こんな仕事をしているんだよって、地元の友達に話しても、正直、あまり理解してもらうことができません。確かに職場が地下の大きな洞道だなんて、急に言われてもピンときませんよね(笑)」
一方、そんな若手の言葉を笑顔で聞いている船渡さん。「私はそうですね、たとえば仕事を終えて家路をたどるとき、たくさんの家に灯る明かりを見て、ちょっとうれしくなることがあるんです。あの明かりは私たちの仕事の一つの成果なんだよな、と。私たちは、皆さまの家の明かりをともす、大切な仕事をしているんだなって、じーんとくるんですよね。」
地中送電線の仕事に関わり、地下に潜りっ放しになる彼らは、社員たちからは愛着を込めて“もぐら”と呼ばれている。もぐらたちは、今日も人々の暮らしに明るさをもたらすために、それぞれ責任や誇りを感じ、喜びを想像しながら、今日も仕事に当たっている。