電力需給安定の新しいカタチ。鍵を握るのは“利用者側の調整力”

2021/05/27

電力需給安定の新しいカタチ。鍵を握るのは“利用者側の調整力”

「デマンドレスポンス(DR)」・「仮想発電所(VPP)」という言葉をご存知でしょうか?
電力の需要と供給の最適化を図ることで、双方にメリットを生み、再生可能エネルギーの普及加速にもつながる新たなスキームとして、大きな注目を集めている分野です。
TEPCOグループの中で特にこの分野に力を入れて取り組んでいるのが、東京電力ベンチャーズ株式会社。事業の起点となった福岡オフィスで、これまでの歩みと今後の展望を聞きました。

東京電力ホールディングス株式会社
経営企画ユニット グループ事業管理室
東京電力ベンチャーズ株式会社出向
フレキシビリティ事業部 事業部長

柴田 隆之

1992年入社。配電部、国際部などを担当した後、新成長タスクフォース事務局でデマンドレスポンスを含むフレキシビリティ事業設立に携わる。2018年から東京電力ベンチャーズ株式会社出向。

柴田 隆之

東京電力ホールディングス株式会社
経営企画ユニット グループ事業管理室
東京電力ベンチャーズ株式会社出向
マネージャー

綿引 史敏

2002年入社。配電補修業務に携わった後、青年海外協力隊に参加し、南アフリカ共和国に派遣。帰国後は国際部、新成長タスクフォース事務局を経て、2018年より東京電力ベンチャーズ株式会社出向。現在は新規事業開発、海外業務、企画業務を担当する。

綿引 史敏

東京電力ホールディングス株式会社
経営企画ユニット グループ事業管理室
東京電力ベンチャーズ株式会社出向
シニアマネージャー

中村 圭佑

2006年入社。埼玉支店春日部支社配属となり、配電部門、採用人事、新成長タスクフォース事務局を経て、2018年より東京電力ベンチャーズ株式会社出向。福岡オフィスの立ち上げ、営業・運用実務などを経て、現在はバックオフィス業務を中心に活動。

中村 圭佑

東京電力ベンチャーズ株式会社
フレキシビリティ事業部 福岡オフィス
リージョナル・マネージャー

佐賀 寛

アメリカの広告代理店勤務を経て、2019年に東京電力ベンチャーズ入社。現在は営業にあたる「ソーシング」を中心に、広報・宣伝も担当する。

佐賀 寛

従来とは逆に「需要を供給に合わせる」というアプローチ

柴田「かつて、電力会社のビジネスモデルは非常にシンプルでした。電力会社は営業エリアの利用者の数から期待収益を把握できましたので、期待収益を基に発電所や送配電設備に投資を行うことができました。また、電気は貯めておくことが難しいため、その瞬間に求められる電力と同量の電力を常に生み出し続けることが必要です。この需給調整についても、自社の販売電力に応じた自社の発電所の制御により、正確に需給を一致させることが可能でした。
しかし、電力自由化により収益性が不透明となり、発電所への新規投資が難しい上、自社の販売電力だけでは正確な需給調整が出来なくなる等、事業環境が大きく変わりました。更に、今後拡大が予想される太陽光発電や風力発電による、予測不能な発電量の変動への対応も必要です。
これらの解決策の一つとなるのがデマンドレスポンス。例えば、地域の電力がひっ迫しそうなときなどに、従来のように電力会社が需要に合わせて発電量を増やすのではなく、余力のある利用者に電力消費を抑えて頂くよう調整する。『利用者側の調整力(フレキシビリティ)』によって安定した電力供給に貢献する仕組みです」

従来とは逆に「需要を供給に合わせる」というアプローチ

中村「こうした『需要の調整』という考え方は2000年頃からヨーロッパやアメリカで電力自由化と共に取り入れられ、そのためのノウハウの確立が進んでいます。我々は2013年頃からこれに着目。海外での視察と調査を経て、将来性と社会的意義の大きさを実感した私たちは、日本でもこの事業を展開すべく、この分野で高い技術を持つベルギーのREstore社(2017年にイギリスのセントリカ社が買収)と協業契約を締結しました。再生可能エネルギーとの相性が良いため、まずはその活用に積極的な九州エリアを起点に選び、2018年にこの福岡オフィスを開設。以降、東京オフィスと合わせて、沖縄を除く全国で電力需要の調整を図る『アグリゲーター』として活動を展開してきました」

綿引「アグリゲートとは、集める、束ねるという意味の英語。ご契約いただいている各利用者に消費抑制していただいた電力を調整力(フレキシビリティ)として供出いただき、それらを『集めて束ねる』ことで電力の安定供給に貢献するのが私たちアグリゲーターの役割となります。必要となる電力を生み出して供給するこの仕組みは、まさに発電所の機能と同等のものであり、仮想発電所(VPP)とも呼ばれています。
そして、利用者の皆さんには、調整力供出の対価として電力会社から支払われる報酬がフィードバックされることとなります。
ただ、多くの利用者にとってこの調整力はそう簡単に確保できるものではありません。そこで当社ではセントリカ社との協業によって得たノウハウを生かし、『いかにして調整力を確保するか』も含めたコンサルティングを実施。ワークショップを通じて工場の生産工程の中から一時的に停止させても影響のないプロセスを探す、自家発電機をお持ちであればその活用を検討するなど、利用者の事業を深く理解した上で提案を行っています」

DR発動の仕組み

デマンドレスポンス発動の仕組み。「Flexbee(フレクスビー)」とは東京電力ベンチャーズが提供する、デマンドレスポンスを含むフレキシビリティサービスのブランド名

佐賀「基本的に追加投資などを行うこともなく、既存設備の使い方を工夫することで収入を得られるわけですから、お客さまのメリットは大きい。この点をしっかりとお伝えし、ご理解いただくことで、着実に契約件数を増やしてきました。
現在は、沖縄を除く日本中のお客さまへアプローチを行っています。アグリゲーターとしての競合企業は少なくありませんが、お客さまの設備をよく理解し、きめ細かい提案を行うことで勝負しています。契約して終わりでなく、新たな技術や制度改定などにも対応して寄り添うスタイルで、強固な信頼関係を築いています」

セントリカ社との打ち合わせの様子

セントリカ社との打ち合わせでは、同社のデマンドレスポンスに関するノウハウと東京電力の電気事業のノウハウを融合させていく

1人で立ち上げた小さな事務所。前例のないチャレンジを支えるもの

綿引「これらすべてが従来のTEPCOにはなかった新しい取り組みで、一つ一つのプロセスに対して試行錯誤を繰り返しながら進めてきました。そもそものスタートラインとなったREstore社(2017年にイギリスのセントリカ社が買収)との契約締結も、こちらが海外企業との交渉に不慣れだったこともあって決してスムーズに進んだわけではありません。それでも粘り強く協議を重ねた結果、今や何よりも心強い本事業のパートナーとなってくれています」

中村「それは福岡オフィスの開設についても同様で、TEPCOとしてのアドバンテージがない土地でゼロから営業を展開していくのは決して容易なことではありませんでした。当初は1人で小さな事務所を借りてスタートしましたが、心細くなかったと言えば嘘になります。
それでも前向きに取り組んでこられたのは、このサービスがお客さまにとって、そして社会にとって大きなメリットを提供するものであり、TEPCOがこれからも必要とされるために不可欠なチャレンジであるという確信があったから。スタートから約3年が経ち、その確信はますます根強いものになってきています」

福岡オフィス開設時の事務所スペース

福岡オフィス開設時の事務所スペース

佐賀「同感です。私は前職、まったく畑違いの広告業に従事していたのですが、TEPCOが始めたこの新しいチャレンジに心を動かされて転職を決意しました。電力に関しても素人だったので必死で勉強しながらの営業活動でしたが、自分のミッションに大きな意義を感じながら働けるのはやはり楽しい。充実した毎日を送ることができています。
当初はほとんどのお客さまが初耳だったこのデマンドレスポンスという言葉も、最近は少しずつ浸透して来ているように思います。アグリケーターが増えて営業を持ちかけられる機会が増えているのもあるかもしれませんが、SDGsやカーボンニュートラルへと向かう社会の中で、多くのお客さまがそれにふさわしい事業運営を模索し、こうした分野に目を向けるようになってきたのでしょう。当社の事業はデマンドレスポンスを通じて金銭的なメリットを提供するだけでなく、エネルギー戦略そのものをサポートすることもできますから、そこに価値を感じていただけたときは非常に大きなやりがいを感じますね」

現在の福岡オフィスの業務風景(1)

新たな価値提供に向けて様々な人財が議論を重ねる現在の福岡オフィス

現在の福岡オフィスの業務風景(2)

デマンドレスポンスの進化が生み出す、人と電力のより良い関係

柴田「本事業は着実に成長を遂げており、事業部長として確かな手応えを感じてはいますが、まだ第一歩を踏み出したばかり。目指す姿は調整力(フレキシビリティ)を最大限活用する電気事業の新しい形。デマンドレスポンスはその一要素として、今後、日本においてもさらに大きく発展・進化していくことになると考えています。
まず訪れるのが高速化。先ほど綿引からご説明した『電力会社からの要請を受けて利用者側が電力使用量を調整する』というスキームにおいても、現在は発動の3時間前に連絡を受けた利用者が対応を行うことになっていますが、今後はより速い応動が求められる調整力の市場化が検討されています。より短時間できめ細かく対応できれば、不安定な再生可能エネルギー電源も今以上に無駄なく活用できるようになる。我々は他アグリゲーターが有する有人オペレーションセンターを持たず、全てのプロセスをAIによるクラウドシステムが瞬時に処理しますので、将来の市場にも対応が可能です」

DRを通じた再生可能エネルギー活用のイメージ

デマンドレスポンスを通じた再生可能エネルギー活用のイメージ

綿引「秒単位の調整を人の手で行うのは不可能ですから、AIによる自動制御が必要になります。当社パートナーのセントリカ社はすでのその技術を実用化しており、ヨーロッパ各地の利用者にサービスを提供しています。工場の稼働状況を踏まえて個々のラインの運転を自動調整し、機械学習を通じてそれらを最適化していく──そんなサービスを提供できる下地は、すでに整っている。日本のお客さまに向けて適切にローカライズを行い、しっかりとニーズに応えられる体制をつくっていきたいと考えています」

中村「今はまだ工場などの大手需要家向けの営業が中心ですが、蓄電池や自家発電機などを擁する自治体、そして電気自動車やスマート家電などを持つ一般の方々にも参加いただけるようになれば、より盤石でかつ無駄のない電力供給に貢献できるはず。いま世の中にあるリソースを有効活用しながら、必要とされるところに必要とされるだけの電力供給を行えるような仕組みづくりに貢献していきたいですね」

佐賀「そのためにも、もっと多くの方々にこの事業の意義とメリットを伝えていく必要があります。全国展開をスタートさせましたので、より積極的に営業や広報活動を推し進め、当社のサービスの輪を広げていきたい。国内外のトレンドに目を向けながら常にアップデートを図り、この新しい業界のトップランナーとして、人々と電力とのより良い関係づくりに寄与していきたいと思っています」

【関連動画】

「Flexbee」解説動画
https://youtu.be/1mYwgPvf-cE

【関連リンク】

東京電力ベンチャーズのデマンドレスポンス解説サイト
https://www.tepcoventures.co.jp/flexbee/demand_response

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