資料館
それぞれのフィールドにおいて、自然との共生や環境保護活動などに精力的に取り組んでいらっしゃるオピニオンリーダーの方々との対談内容をご紹介いたします。
今回のゲストは行動派の作家として知られる立松和平さん。栃木県・足尾で10年以上取り組んでいらっしゃる植林活動や、これまでに訪れた国内外の自然についてなど、実体験に基づくお話をお聞きしました。自然のためにできることを始めようという、立松さんの前向きな姿勢が印象的でした。
<作家>立松和平(たてまつわへい)
1947年栃木県生まれ。早稲田大学在学中に「自転車」で早稲田文学新人賞を受賞。以後、幅広い作家活動を行ない、社会問題、仏教研究、国内外の紀行文など数多く手がける。ここ十数年は自然環境問題にも積極的に取り組んでいる。
- 第1回尾瀬戸倉山林ブナ植林地にて。
竹内さんが「息子」とも呼ぶブナの若木だ - 東電小屋で、自然保護の未来について語る
- 立松
- この苗木は何ですか。
- 竹内
- ブナです。スタート当初はブナだけ植えていたんですが、第10回以降は、戸倉山林生まれのブナを中心に、トチ、ミズナラなど数種類の苗木を植えています。立松さんは足尾で植林活動をされていますが、何年くらい続けてらっしゃるんですか?
- 立松
- 12~13年ですかね。
- 竹内
- 尾瀬戸倉山林の活動よりちょっと先輩ですね。東京電力は平成9年に始めて、今年5月で第11回を終えたところですので。
- 立松
- 足尾の植林はね、公害で本当に極限まで植生が破壊されたところでやってるんです。なんでもいいから苗木を持ってきてもらって、土も山に運び上げてます。こんな所に植林しても根がつかないだろうとか、土まで運んで植林するんじゃ植木鉢だろうとか、いろいろ言う人もいたけれど、これだけ続けたらかなり緑になりましたよ。やってみるもんですねぇ。
- 竹内
- 自然に対する考え方は人それぞれ違うでしょうが、とにかく行動されたこと、そして続けているということは素晴らしいですよね。
- 立松
- 4月末の植樹祭では、いつも「皆さんの心に木を植えましょう」と言ってるんです。地面に植えた木と、心の中に植えた木が、同じように育っていくんですね。木はゆっくり大きくなるから、植林された木の成長がその人の人生そのものにかぶさるのね。それが面白いです。毎年参加してくれる人もいるんですが、10年以上やっていると、最初チビだったのが青年になってたりして。
- 竹内
- この苗木も、最初は私より小さかったのにすっかり追い越されました。子供を産んだこともないのに「息子が自分より大きくなるってこんな気持ちかな」と想像したりしています(笑)。東京電力の植林にも、最近お子さんを連れてきてくださる方とか、ご高齢の方とか、本当に参加者の幅が広くなってきて、それがとてもうれしいです。そして、ここで初めて植林を体験して、地域の森づくりに参加するようになったという方もいらっしゃって、それはまさに「人の心に木を植えられたかな」という感じですね。
- 山小屋の人達も大きな協力者だ
- 尾瀬沼のほとりで、しばしコーヒータイムを楽しんだ
- 雨が上がり、尾瀬ヶ原にあざやかな虹がかかった
- 竹内
- これまで尾瀬は、日光国立公園の一地域だったのですが、「尾瀬国立公園」として分離・独立するんですよ。
- 立松
- 尾瀬はひとつの完結した世界として、切り離していいと思いますね。
- 竹内
- そうですね。20年ぶりの新国立公園誕生で、地域にも活気が出ましたし、これまでの保護活動が評価された結果でもあるので、地域の皆さんとともに活動してきた東京電力としても、うれしいことだと思っています。立松さんが第二の故郷とおっしゃる知床は世界遺産に指定されましたよね。何か変わったことはありますか?
- 立松
- 一時期かなり世界遺産ブームでたくさんの人が押しかけてきましたが、少し落ち着きましたし、エコツアーなど新たな取り組みも始まりました。
- 竹内
- なるほど。価値が認められることは良いことですが、一過性のブームにはなってほしくないですね。
- 立松
- 尾瀬は昔から「エコツアー」を地でいっているんですよね。木道の上だけ歩く、ゴミは持ち帰る、伝統あるエコツアーモデル地区ですよ。人を教育する場でもあると思う。
- 竹内
- そういうパワーは確かにあると思います。
- 立松
- 尾瀬は見るようにできている、というか、人と自然の折り合いがうまくできていますよね。
- 竹内
- そうですね。尾瀬を守るのであれば、人が入れないようにすることが一番簡単で確実でしょうが、自然を傷めることなく人と自然がふれあえることを目指した、これはすごいことだと思います。
- 立松
- いろんな人の思いがつまった場所だから、初めて来た20年前から変わらない。美しいものを見ると人は変わるんですよ。
- 竹内
- やさしくなりますよね。
- 立松
- やさしくなる。そして、壊しちゃいけないと思えるんですね。帰ると忘れちゃうかもしれないけれど(笑)。
- 竹内
- 何度も来れば忘れなくなるかな(笑)
- 立松
- 僕は尾瀬が汚れたときは、日本人の心が汚れたときだと思います。でもまだまだ大丈夫そうですね!