柏崎刈羽原子力発電所1号機原子炉建屋における火災に係る原因および再発防止対策に関する報告書の経済産業省原子力安全・保安院への提出について
平成21年3月19日 東京電力株式会社 当社柏崎刈羽原子力発電所における度重なる火災の発生について、地域の皆さま に大変ご心配をおかけしましたことを、心よりお詫び申しあげます。 当社は、平成21年3月5日に柏崎刈羽原子力発電所1号機原子炉建屋において発 生した火災について、同日、経済産業省原子力安全・保安院より、火災の発生原因 および再発防止対策に関する検討を行い、速やかな報告を求める旨の指示文書*1 を受領いたしました。 (平成21年3月5日お知らせ済み) 本日、この結果につきまして、同院へ報告いたしましたのでお知らせいたします。 1.事象の概要 平成21年3月5日、柏崎刈羽原子力発電所1号機原子炉建屋地下5階(管理 区域)の原子炉隔離時冷却系*2ポンプ室において、原子炉隔離時冷却系ポン プ分解点検の準備作業を行っていたところ、火災が発生いたしました。 聞き取り調査および現場確認を行った結果、当該ポンプ分解点検のための準 備作業として、洗浄剤(危険物)の小分け作業を危険物保管箱(金属製、上蓋 開放型)の中で実施しており、作業中に同保管箱の中にあった帯電性のあるポ リ袋*3に包まれたエタノール缶の位置をずらした際に発火したことがわかり ました。 2.調査状況 調査の結果、以下のとおり火災が発生したものと推定いたしました。 (1)発火メカニズム ・保管箱内で一斗缶から小分け容器(樹脂製容器)への洗浄剤の補充作業中 に、洗浄剤から発生した可燃性ガスが保管箱内に滞留し、その濃度が燃焼 範囲内となった。 ・保管箱底部に置かれていたポリ袋に包まれていたエタノール缶の位置をず らした際に、ポリ袋が帯電し、これにより蓄積されたエネルギーが放電に よって放出された際に、保管箱底部に滞留していた洗浄剤から発生した可 燃性ガスに着火した。 (2)延焼メカニズム ・保管箱内に置かれたタービン油用のポリタンクが保管箱内部の燃焼により 溶解し、タービン油が漏れ出した。 ・保管箱内部の燃焼の熱影響により保管箱の底板と側板との間に生じた隙間 から、洗浄剤およびタービン油の一部が保管箱外に漏れ出した。 ・保管箱外に漏れ出した洗浄剤とタービン油が原子炉隔離時冷却系ポンプ室 内の空調機近傍に広がり、これらに引火して空調機の側板が焦げるなど、 保管箱の外に延焼した。 ・燃焼に伴う輻射熱により、保管箱右近傍の床面におかれた小分け容器の内 圧が上昇し洗浄剤が噴出し、引火したことなどにより火災が拡大した。 ・保管箱内部に保管されていたスプレー缶が破裂し、中身が燃焼したことに より、床面が焦げた。 3.問題点 本事象の要因を検討した結果、対策を講じるべき以下の問題点が抽出されま した。 ○当社の問題点 a.危険物の管理については、保管量を指定数量の5分の1までに限るという 運用に対する管理に重点が置かれており、持ち込み量に関しては「必要最 小限」と定めていたものの、「必要最小限」の定義が不明確であった。 b.保管箱の中に帯電性の高いポリ袋が保管されていた等、可燃物に対する管 理が不十分であった。 c.危険物取り扱い作業に関わる当社要求事項に対する当社の解釈と協力企業 の解釈に差異が生じていた。 d.このような状況の中で工事監理員は、揮発性の高い洗浄剤を取り扱うこと の危険性について一般的な知識はあったが、現場管理においてその知識を 生かすことが出来ず、小分け容器への洗浄剤補充作業の危険性を指摘でき なかった。 e.工事監理員は、保管箱の中に刷毛(はけ)や携帯ガスボンベ、ポリ袋に包 まれたエタノール缶等の可燃物があることを知らなかった。 ○協力企業(元請)の問題点 f.保管箱の中に帯電性の高いポリ袋や刷毛(はけ)、洗浄剤の補充作業に使 用する手動ポンプが危険物と混在して保管されていた等、工事担当者によ る可燃物に対する管理が不十分であった。 g.工事担当者は、仮置表示(保管箱の内容物表示)に記載のない携帯ガスボ ンベやエタノールが保管されていることを確認しなかった。 h.工事担当者は、協力企業(下請)が小分け容器への洗浄剤の補充作業を保 管箱内のような狭隘箇所で実施することを知っていたが、従前から実施し ていたこともあり、それが危険であると認識していなかった。 i.工事担当者は、ポリ袋の帯電性について十分な知識を有していなかった。 j.災害防止責任者および災害防止担当者による工事担当者に対する危険物に 関する意識付けが十分でなかった。 以上の問題点を整理すると、以下の3つの問題点に整理される。 (1)危険物に対する当社の現場統率力の不十分さ(a.b.c.e) (2)危険物に対する協力企業(元請)の現場監督力の不十分さ(f.g.h.j) (3)危険物作業に関わる人たちの知識および危険(リスク)予知の不十分さ (b.d.i.j) 4.再発防止対策 対策の立案にあたっては、「原子力発電所における防火管理の抜本的な強化 に関する特別委員会」において、専門家の指導・助言を賜りながら、抜本的な 対策の検討を実施いたしました。 検討の結果、前述の3つの問題点等を踏まえ、主に以下の観点から抜本的な 対策(27項目:別紙を参照)を講じることといたします。 ・現場統率力・監督力の強化(問題点(1)、(2)についての対策) 危険物は一見、着火源が無いように見えても、静電気・熱などにより発 火する可能性がある極めて危険なものであることを認識し、まずはこれを 建屋外に搬出し、その後の持ち込みを最小限にすることが重要。また、そ の取り扱いにおいては、危険物に対する正しい知識をもち、火災発生のリ スクアセスメントを行うことが重要。 ・危険(リスク)の予知力の強化(問題点(3)についての対策) 危険物の怖さを体感できる研修を行い、危険物作業に関わる人たちの知 識を向上し、危険(リスク)予知力を強化することが極めて重要。これに より、様々な防火・改善アイディアを生み出し、火災発生のリスクをより 一層低減していく。 ・現場第一線の意識を高める対策 このような対策を当社と協力企業が協力して実施していくことを全員で 共有し、しっかりと活動していく。 なお、抜本的な対策の実施にあたり、まずは、火災の危険性が高い第一石油 類、第二石油類およびアルコール類*4を取り扱う作業について、当社がこれ を直接管理可能となるレベルまで、その使用量を減らすことを基本として、種 々の対策を講じていくことといたします。 また、今後も引き続き、専門家の指導や助言を仰ぎ、火災を起こさないため に必要な対策等を検討してまいります。 当社は、安全意識をより一層高めるとともに、協力企業各社も含め一丸となって 災害発生の未然防止に努めてまいります。 以 上 ○別紙 ・再発防止対策に関わるアクションプラン(PDF 26.2KB) ○添付資料 ・柏崎刈羽原子力発電所1号機 原子炉建屋地下5階原子炉隔離時冷却系ポンプ 室での火災に係る原因および再発防止対策について(PDF 1.69MB) *1 指示文書 「柏崎刈羽原子力発電所1号機原子炉建屋における火災について」 (平成21・03・05原院第1号) 平成21年3月5日、原子力安全・保安院(以下「当院」という。)は、貴 社柏崎刈羽原子力発電所1号機原子炉建屋において火災が発生し、負傷者を 生じた旨の連絡を受けた。昨年11月22日の同発電所7号機タービン建屋、12 月8日の同発電所6号機タービン建屋における火災等に引き続き本件火災が 発生し、これまでも当院から再発防止対策の徹底を指示していたにもかかわ らず、本件火災が発生したことは、極めて遺憾であり、厳重に注意する。 このため、当院は、貴社に対し、本件火災の発生原因及び再発防止対策に ついて、検討を行い、速やかに報告することを求める。 *2 原子炉隔離時冷却系 原子炉の蒸気を駆動源にしてポンプを回し、原子炉の水位確保および炉心 の冷却を行う系統。 *3 帯電性のあるポリ袋 一般的に使用されている静電気を帯びやすい性質のポリエチレン製の袋。 *4 第一石油類、第二石油類およびアルコール類 第一石油類とは、アセトン、ガソリンその他1気圧において引火点が21℃ 未満のもの。今回の事象に関しては、PT剤(浸透探傷試験で使用される赤 色や蛍光の浸透性のよい検査液)等のこと。 第二石油類とは、灯油、軽油その他1気圧において引火点が21℃以上70℃ 未満のものをいい、塗料類その他の物品であって、組成等を勘案して総務省 令で定めるものを除く。今回の事象に関しては、塗料等のこと。 アルコール類とは、一分子を構成する炭素の原子の数が1個から3個まで の飽和一価アルコール(変性アルコールを含む。)をいい、組成等を勘案し て総務省令で定めるものを除く。今回の事象に関しては、エタノール等のこ と。
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