葛野川発電所1号機の営業運転開始について
-揚水式発電として世界最大の有効落差を持つ発電所-
平成11年12月3日
東京電力株式会社
当社は平成5年1月より、揚水式発電(注1)として世界最大の有効落差を持つ葛
野川発電所(山梨県塩山市・大月市)の建設を進めてまいりましたが、本日、1号機
(出力40万kW)の工事が完了し、営業運転を開始いたしました。
葛野川発電所は、当社として8番目の揚水式発電所であり、完成時の出力(1~4
号機合計)は160万kWとなり、これは一般家庭約50万軒分の電気に相当します。
水力発電所は、有効落差が大きくなれば、同じ水量でもそれだけ大きな出力を得ら
れ、建設コストを低減することができます。葛野川発電所では、地形を効果的に利用
するとともに、ポンプ水車製造メーカーと共同で研究を進め、最新技術を駆使して
714mという大きな落差に伴う高水圧や衝撃に耐えうる「超高落差ポンプ水車」を開
発・採用した結果、揚水式発電所としては世界最大の有効落差を実現しました。
これにより、これまで上部ダムと下部ダムの間に必要だった中間ダム建設を省略す
ることができ、建設費を15~20%程度削減することができました。
また、施工にあたっては、上部ダムと下部ダムとを結ぶ水圧管路(52度30分の急勾
配で、直径7m、長さ700mの巨大なトンネル)の建設に、急勾配型トンネル掘削機
を使った機械化工法(リーミングTBM工法:Tunnel Boring Machine)を採用し、
工期の短縮をはかったほか、下部ダム(コンクリート重力式ダム)の建設にあたって、
セメントと水を減らした硬練りコンクリートを使用し、急速施工ができるRCD
(Roller Compacted Dam Concrete)工法を採用し、一層のコストダウンを達成しまし
た。
あわせて、発電所・水路などの主要構造物を収容する地下空洞の岩盤への補強工事
(長さ10~20mの束ねたワイヤーを岩盤内に挿入・固定し、空洞周辺の岩盤を深部の
岩盤に締め付けて補強する)に際して、岩盤に加わる力の変化を正確にシミュレーシ
ョンする最新の解析手法を開発・導入し、予測精度を高めたことによって補強工材を
削減することができました。
高落差の利用に加え、こうした新技術の開発や効率化工法の採用などにより、建設
工事全体で約900億円のコストダウンを達成いたしました。(建設単価は1kWあたり
約5.6万円削減され、約24万円/kWとなりました。)
なお、葛野川発電所1号機の営業運転開始に伴い、葛野川ダム(下部ダム)の選択
放流設備(注2)を利用した流れ込み式の土室川発電所(350kW)も、本日営業運転を
開始いたしました。
今日まで、地域の皆さまをはじめ関係各方面の皆さまから多大なご理解とご協力を
いただきましたことに対し、深く感謝申しあげます。
今後とも当社は、発電所の安全確保ならびに安全運転に最大限の努力を傾けてまい
ります。一層のご協力とご支援を賜りますようお願い申しあげます。
以 上
(注1)揚水式発電とは、電気の需要の少ない夜間に下部ダムから上部ダムに水を汲み
上げ、昼間の電気の需要の多いときには、逆に上部ダムから下部ダムに水を落
として発電する方式の水力発電で、電力消費量の平準化や電力の安定供給に大
きな役割を果たしている。
(注2)ダムの水をなるべく下流に影響を与えないよう放流する設備。具体的には大雨
等でダムに流入する濁水を避けたり、適切な温度の水を選択して放流できる環
境にやさしい設備。
<参考1>
1.葛野川発電所の概要
(1)所在地 :山梨県大月市七保町
(2)河川名 :富士川水系日川(上部ダム)
相模川水系土室川(下部ダム)
(3)出力 :1号機40万kW(平成11年12月3日営業運転開始)
2号機40万kW(平成12年7月営業運転開始予定)
3、4号機80万kW(平成15年7月営業運転開始予定) 合計160万kW
(4)有効落差:714m
(5)使用水量:280立方m/s(40万kW×4台)
(6)ダム
上部ダム 下部ダム
名称 上日川ダム 葛野川ダム
型式 中央土質遮水壁型フィルダム コンクリート重力式ダム
高さ 87m 105m
体積 411万立方m 62万立方m
総貯水容量 1,147万立方m 1,150万立方m
満水位標高 1,481m 744m
備考 岩石を積み上げ、中央部に土質 コンクリートの重さで水圧を
材料を締固めて形成した遮水壁 支えるダムで、使用した材料
を設置し、止水する形式です。 は地下発電所や周辺トンネル
を掘削した岩石を極力利用し
ています。
(7)発電所
・型式 :地下式発電所
・主要機器:
(1)ポンプ水車:立軸フランシス形ポンプ水車(412MW×4台)
(2)発電電動機:三相交流同期発電電動機(475MVA×4台)
(8)総工事費:約3,800億円
2.当社発電設備の状況(平成11年12月3日現在、自社分)
種 別 認可出力 構成比
水 力 810.1万kW 14%
火 力 3,295.4万kW 56%
原子力 1,730.8万kW 30%
合 計 5,836.3万kW 100%
3.当社の揚水式発電所一覧表(平成11年12月3日現在)
発電所名 出力(万kW) 所在 運転開始年 揚水型式
矢木沢 24 群馬県 S.40 混合揚水
安曇 62.3 長野県 S.44 混合揚水
水殿 24.5 長野県 S.44 混合揚水
新高瀬川 128 長野県 S.54 混合揚水
玉原 120 群馬県 S.57 純揚水
今市 105 栃木県 S.63 純揚水
塩原 90 栃木県 H. 6 純揚水
葛野川 40(160) 山梨県 H.11 純揚水
( )内は完成時
4.「葛野川発電所」建設経緯
平成元年4月 葛野川水力調査所設置
平成3年7月 第 118回電源開発調整審議会において付議決定
平成3年8月 葛野川水力建設準備事務所に組織変更
平成4年6月 葛野川水力建設所に組織変更
平成5年1月 本体工事着工
平成9年6月 上日川ダム湛水開始
平成10年6月 葛野川ダム湛水開始
平成11年4月 1号機初並列試験
平成11年12月 葛野川発電所1号機(出力40万kW)営業運転開始
5.土室川発電所の概要
土室川発電所は葛野川ダム(下部ダム)の選択取水設備からの放流水を利用し、最
大出力 350kWの発電を行います。
水系及び河川名:相模川水系土室川
最大出力 :350kW
最大使用水量 :0.5立方m/s
有効落差 :89.94m
可能発生電力量:1,225MWh
水車発電機種類:横軸ペルトン、横軸三相交流誘導
工期 :平成10年4月~平成11年12月(1年9ヶ月)
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