高効率の高温超電導ケーブル用線材の開発について
~電力損失を従来タイプの1/10に低減~
平成9年10月23日
東京電力株式会社
住友電気工業株式会社
東京電力(株)と住友電気工業(株)は、このたび、大容量化しても送
電時の電力損失を従来型の10分の1に低減できる、全く新しい断面構造を
持つ「高温超電導ケーブル用線材」の共同開発に世界で初めて成功いたし
ました。
従来型の高温超電導体用の線材では、複数の線材を合わせて大容量化を
図ろうとすると電力損失が増大してしまい、送電電流の大容量化と電力損
失の低減を両立させることが困難でした。
今回開発した線材は、断面構造や圧延工程を工夫することにより、従来
型の線材に近い大きな電流を流せる(液体窒素温度(-196℃)で最高1万
A/cm2の臨界電流密度)と同時に、大容量化した際の電力損失も従来型の10
分の1にまで低減することができました(同一サイズ、同一容量のケーブ
ル導体に1000Aの交流電流を通電した際の交流損失0.3W/m)。
都市部において電力需要はますます増大する傾向にあるものの、利用で
きるスペースは限られております。
超電導ケーブルの特徴は、大きな電流を小さなケーブルで流せるコンパ
クト性にありますが、電力損失の大きな従来型のケーブルでは冷却管が大
きくなり、大幅なコンパクト化は困難な状況でした。
今回開発した技術が実用化できますと、100万kW級の電力を直径15cm程
度の地中管路を利用して送電でき、現在使用している洞道設置のOFケー
ブル(Oil Filled Cable)と比較して、設置スペースはわずか100分の1程
度で済みます。このため、土木・建設費の大幅なコストダウンが可能にな
るとともに、地下空間の有効利用にもつながるものと期待されます。
今後、両社では、高温超電導ケーブルの実用化を目指して、今回作製し
た線材の性能をさらに向上させ、ケーブル導体の低損失化を図り、さらに
は周辺技術の開発も進めていく考えです。
なお、今回の開発の成果については、10月27日(月)~30日(木)に
長良川国際会議場(岐阜県)で開催される(財)国際超電導産業技術研究
センタ-(通称:ISTEC)主催の「第10回国際超電導シンポジウム」
において発表する予定です。 以 上
開発体制の概要
(1)開発主体
○東京電力株式会社
・所在地:千代田区内幸町1-1-3 電話 03-3501-8111
・社 長:荒木 浩
○住友電気工業株式会社
・所在地:大阪市中央区北浜4-5-33 電話 06-220-4141
・社 長:倉内 憲孝
(2)研究期間 平成8年4月~平成9年9月
(3)開発費用 2億円 (両社1億円ずつ)
<参考>従来型線材と今回開発した線材の違いについて
従来型の高温超電導体用の線材(注1)は、テープ状(平型)であ
ったが、テープ状の線材は、多くの電流を流せるという特性がある一
方で、大容量化するために線材を多重に重ね合せてしまう構造(多層
構造型)にしてしまうと、導体の中を流れる電流が不均一となって大
きな電力損失が発生してしまう欠点があった。
今回開発した線材は、形状を丸線型にすることで、大容量化する際
に線材同士を撚り合わせた構造(転位型構造(注2))にできること
から、導体に均等に電気が流れ、多層構造型の課題である電力損失の
低減が可能となる。さらに、これまで丸線型にするとテープ状に比べ
て流せる電流が小さかったが、今回、線材の断面構造や圧延工程の工
夫をしたこと等により、テープ状の線材に近い大電流を流すことがで
きるようになった。
なお、超電導ケーブル用導体への丸型線材の適用は今回が世界初で
ある。
注1:高温超電導
超電導体には液体ヘリウム冷却(-269℃)を伴う金属系の超電
導体と、液体窒素冷却(-196℃)を伴う酸化物系の超電導体があ
り、その冷却温度の違いから、後者を特に高温超電導体と呼ぶ。
超電導ケーブルを金属系の超電導体を用いて作ろうとすると、
高温超電導体よりもはるかに低い温度に冷却しなければならず、
冷却管が大きくなってしまう。このため、コンパクトな超電導ケ
ーブルを作るには高温超電導体が有望である。
注2:転位型構造
丸型の素線を複数本集合してねじり合わせることで撚り線を作
製し、これを導体の芯材の周りに多数巻き付けることで作られる
導体。
平型線材でできた多層構造型導体では、内層の素線と外層の素
線が位置を変えることはないので、電流のながれやすい外層に電
流が集中する表皮効果があらわれる。これに対し転位型導体では、
素線は撚り合わされることにより、導体内で内側と外側に交互に
位置を変える。このため、各素線で、電流の流れやすさに差がな
くなり、電流が均一に流れるようになる。
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