平成18年9月15日
東京電力株式会社
当社・福島第一原子力発電所4号機(沸騰水型、定格出力78万4千キロワット)
は、定格出力で運転中のところ、平成18年7月31日、前日の同号機の純水補給水系*1
(以下、当該系統)の使用量積算計の値とその供給先の使用量との間に不整合が確
認されました。その後の調査の過程で、8月5日、復水補給水系(以下、復水系)
から当該系統につながる弁(以下、当該弁)が、通常は全閉のところ全開となって
いることが確認されたため、当該弁を全閉にするとともに、復水系の水が当該系統
に流入した可能性を考慮し、当該系統の水の放射能濃度を測定いたしました。
その結果、8月6日、自然界に含まれる濃度よりも高い*2トリチウム*3が検
出されたため、放出防止対策を行うとともに、トリチウムの管理区域外(大気およ
び周辺海域)への放出量を評価いたしましたが、所内ボイラの蒸気による放出経路
の一部に見落とし*4があり、結果として8月11日まで放出が継続いたしました。
この間の放出量を含めて評価したトリチウム放出量*5は約4.7×1010ベクレル*6
であり、一般公衆および周辺環境への影響がないと評価しました。なお、放出経路
のうち、所内ボイラの蒸気に含まれるトリチウムの大気放出については、廃棄物処
理施設を経由せず、管理されていない状態で放出されたものであることから、「実
用発電用原子炉の設置、運転等に関する規則」に基づく報告対象事象であると判断
いたしました。
(平成18年8月6日、8日、11日お知らせ済み)
今回の事象において、当該弁が通常は全閉であるべきところ全開となっていたこ
とから、純水使用量に不整合があった7月30日前後の当該弁の開閉操作をともなう
作業等について調査いたしました。その結果、7月28日に行われた超音波洗浄作業*7
において、協力企業作業員が、当該弁の開閉操作をしていたこと、また、7月31日
に金属材除染作業*8を行う協力企業作業員が、当該弁に隣接する金属材除染作業
に使用する弁を確認した際、通常は全開であるべきところ閉まっていたため開操作
を行っていたことがわかりました。
これらのことから、当該弁が全開になっていた原因は、7月28日に超音波洗浄作
業が終了した後、当該弁を閉操作すべきところ、誤って当該弁に隣接する弁を閉め
た可能性が否定できず、このため当該弁が全開のままになったものと推定しました。
また、当該弁の下流側(復水系側)に設置された逆止弁がシートリークしていた
可能性が考えられたため、当該逆止弁を分解点検したところ、弁座側の接触面が全
体でなく外周部のみであったことが確認されました。
このことから、プラント運転中に発生した復水系の圧力変動*9で当該逆止弁が
一時的に開閉した際、弁座側のシート面の接触具合が変わってシートリークが発生
し、当該弁の全開とあいまって、復水系の水が当該系統に流入したものと推定いた
しました。
このようにして復水系の水が混入した当該系統の水は、所内ボイラの給水などに
使用されるとともに、当該系統の排水は各号機のストームドレン*10系に収集され
ることから、主に蒸気および排水として管理区域外へ放出されました。なお、5号
機において、主復水器の水室の洗浄に使用した当該系統の水が放水口へ放出されま
した。
また、誤って弁を操作する可能性について分析したところ、以下の要因が抽出さ
れました。
・超音波洗浄作業を実施する際の管理に用いている当社の作業手引きにおいて、当
該弁の操作に関する記載が不十分であった。そのため、当社は当該弁の操作に関
して操作札の発行・管理を行うことなく協力企業に操作を依頼していた。
・協力企業は超音波洗浄作業を実施するにあたりチェックシートを作成していた。
しかし、当社の作業主管グループが作業手順の確認を十分に行わず、明確な手順
を示さないまま協力企業に操作を依頼していたため、チェックシートには当該弁
の名称および番号が明記されなかった。
対策として、復水系から当該系統へ流入する経路となった当該配管については分
離し、これにともない不要となる逆止弁は撤去いたします。
また、超音波洗浄作業に用いる手引きについては、操作する弁の操作内容と操作
札による管理を明記するとともに、作業用のチェックシートには操作する弁の名称
および番号を明記することといたします。
本事象については、当社および協力企業の関係者で事例検討会を行うことにより
周知いたします。
以 上
*1 純水補給水系
発電所の運転に必要な純水を供給する系統。
*2 自然界に含まれる濃度よりも高い
・自然界の海水のトリチウム濃度は約5×10-4ベクレル/cm3
・8月6日時点で確認された水のトリチウム濃度は最大で約1.3×102ベクレル/cm3
*3 トリチウム
水素の仲間で地球上のどこにでもある放射性物質で、原子炉の中でも発生
しており、復水系の水にも含まれている。
*4 放出経路の一部に見落とし
・5号機所内ボイラにおいて、8月11日、蒸気供給先から回収される水(温
度約90℃)のタンクに設置されたベント(気抜き)配管を経由して大気へ
放出していることを確認。
・集中環境施設プロセス建屋の所内ボイラにおいて、8月11日、燃料を噴霧
するために使用している蒸気が煙道を経由して大気へ放出していることを
確認。
*5 評価したトリチウム放出量
・ストームドレン放出量(放水口): 1.9×109ベクレル
(検出限界未満~約21ベクレル/cm3の濃度で約955m3を放出)
・5号機主復水器水室洗浄水の放出量(放水口): 1.4×108ベクレル
(最大濃度約1.4×102ベクレル/cm3で約1m3を放出)
・所内ボイラの蒸気による放出量(大気): 4.5×1010ベクレル
(最大濃度約1.4×102ベクレル/cm3で約330m3を放出)
*6 約4.7×1010ベクレル
本事象により一般公衆が受ける放射線量は2.8×10-7ミリシーベルト/年
で、法令の線量限度(1ミリシーベルト/年)の約350万分の1となる。なお、
ストームドレン系から放水口へ放出したトリチウム濃度は、放出時に主復水
器を冷却した海水で希釈され約1.7×10-3ベクレル/cm3になるため、法令
で定める濃度限度(3ヶ月平均60ベクレル/cm3)に対して十分低い値とな
り、周辺環境への放射能の影響はないものと考えている。
*7 超音波洗浄作業
フィルタを超音波にて洗浄する作業。
*8 金属材除染作業
機材等に付着している放射性物質を除去する作業。
*9 復水系の圧力変動
毎日定例的に行われている主復水器の逆洗操作時に復水系から主復水器側
へ水が補給される際、復水系の圧力が一時的に変動(低下)すること。
*10 ストームドレン
空調機の凝縮水、結露水および点検などで排水される海水などの非放射性
の水。
添付資料
・添付図1:純水補給水系およびトリチウムの放出経路概要図(PDF 18.6KB)
・添付図2:復水補給水系の水が純水補給水系へ流入した推定原因メカニズム(PDF 21.7KB) |