長身で静かに立ち、黙々と仕事をこなします。という煙突のお話。
2016/04/01
煙突から出ている白い煙の正体は、実は水蒸気なんですよ
東京電力フュエル&パワー株式会社 4月1日発行
ランドマークとして用いられるなど、長身ゆえに存在感のある容姿。
その一方で、いつも周囲に気を配り、目立たず控えめな性格……。
今回は、火力発電所のスマート紳士、煙突のお話をお届けします。
平均身長は170m!
当社が運転する全15の火力発電所には、計37本の煙突があります。東京タワー第1展望台の高さは145mですが、当社煙突の高さは最低85m、最高230mで平均170m。社員も点検時以外はあまり登ることのない煙突ですが、その上からは数十km先まで気持ちよく見渡すことができます。
ところで、煙突はなぜ高くなければいけないのでしょうか?
煙突の機能は、排出する気体を大気中に拡散させることです。排気が地表の環境にできる限り影響しないように設置されます。煙突の高さを決める際に大切な要素となるのは、発電所を建設するときに必ず実施される環境アセスメントの結果です。地盤や地形、空気の流れなど、環境アセスメントで得られたさまざまな要因から、周囲の環境への影響を十分に考慮して煙突の高さや形状などが導き出されます。
環境アセスメントの結果は場所によって異なりますから、煙突の高さも火力発電所によってそれぞれ。当社火力発電所で最も高い煙突は、鹿島火力と常陸那珂火力発電所の230m。逆に、川崎火力発電所、東扇島発電所の煙突は、羽田空港が近いことから航空機運行への影響を考慮してそれぞれ85m、135mに抑えています。また、多くの煙突でペインティングデザインを施すなど、その存在感ゆえに周囲の景観にも配慮しています。
計算しつくされた太さ
最近はなかなか目にする機会が少なくなってしまいましたが、銭湯の煙突は概ね直径2m程度。では、当社火力発電所の煙突はというと、4〜7.6mの太さがあります。両国国技館の土俵が直径4.55mであることを考えると、そのサイズ感をおわかりいただけるでしょう。
煙突の太さを決める要因としてあるのが、発電機の出力です。例えばLNGを燃料とする川崎火力発電所のコンバインドサイクル発電(MACC)は出力50万kWで直径5.7m、今年1月から営業運転を開始した1,600℃級コンバインドサイクル発電(MACCⅡ)は71万kWで直径6.9m。出力に比例して排気の量も多くなるので、それだけ太い煙突が必要になります。
また煙突の太さは、中を流れる排気の温度とも密接に関連しています。煙突は本来の機能として、温かな気体を自然上昇させて排気しますが、このとき直径が太すぎると十分な上昇力を得ることができません。仮に太い煙突でも気体が高温であれば上昇力を得られるのですが、発電においては熱こそ重要なエネルギー。せっかくの熱を無駄に大気中に放出するわけにはいきません。そこで、熱エネルギーは可能な限り有効に発電に使いながら、残った排気温度(約85℃)で効果的に排気できる太さが導き出されています。
煙突の数は本当に2本?
1か所の火力発電所では通常、複数の発電機を運転しています。そして煙突の数は、基本的にひとつの発電機に対して1本。ですから、ほとんどの火力発電所には複数の煙突が立っています。
ですが……2本の煙突が立つ川崎火力発電所には現在、6機のLNG火力発電機があります(うち1機は試験運転中)。ん!? どうして煙突は2本だけ? 確かに見た目は2本だけのようですが、実は、1本の塔は3本の煙突が寄り集まってできています。複数の煙突を集約して1本の塔にすることは、耐震性、メンテナンス性、設置面積、建設コストなど、多くのメリットをもたらしています。
長身の煙突が静かに立ち続けられる理由
川崎火力発電所の海側(上記、川崎火力発電所全景写真の手前側)の煙突最上部には、50tもの重りが設置されています。実はこの重り、煙突の制震性向上に大切な役割を果たします。
外見上は1本に見える川崎火力発電所の煙突は、実際には3本の煙突(正確には「筒身」)と、中央に軸となるエレベーターシャフトで構成されています。重りを乗せているのはこのうちの中央のエレベーターシャフトで、地震のときに煙突の揺れとは違う波長で揺れるように、必要な重量を算出しているのです。そして、3本の煙突とこのエレベーターシャフトは、ダンパーと呼ばれる衝撃吸収装置で結ばれていて、お互いの揺れを吸収し合って高い制震性を発揮します。
ちなみに、新しい陸側(写真奥側)の煙突には、設計当初から最新の知見が反映され予め制震装置が設置されています。
地震や台風、長年風雨にさらされることによる劣化など、細く高く空に伸びる煙突には、常に強さも求められます。当社では、定期的にメンテナンスを施しながら耐久性を維持することはもちろん、最新の知見に基づく地震解析を行い、耐震性を高めるための設備補強などを実施して、常に安全性を高める努力を続けています。
燃料を使わないボイラー?
水を熱して水蒸気を作るボイラーといえば、一般的には燃料を使うものですが、火力発電所には燃料を使わないボイラーも存在します。
「排熱回収ボイラー」と呼ばれるこのボイラーは、発電用にタービンを回した後の高温の排気を使って水を加熱する装置で、その大きさは中型のマンションほど。排熱回収ボイラーで温度の下がった排気は、窒素酸化物(NOx)を低減させる脱硝装置*を通って、煙突から排出されます。
*環境に負荷の低いLNGや都市ガスを燃料としているため、硫黄酸化物(SOx)やばいじんは発生しません。従って、排熱回収ボイラーには、これらを取り除く装置はついていません。
煙突から出る煙は白い色をしていますが、この白い煙の正体は水蒸気です。煙突からはヤカンの湯気のような煙が立ち上がるだけで、すぐに消えて見えなくなってしまいます。
排熱回収ボイラー、脱硝装置、そして煙突。これらがしっかり機能することで、火力発電所周辺の環境への影響を最小限に抑えているのです。