資料館

それぞれのフィールドにおいて、自然との共生や環境保護活動などに精力的に取り組んでいらっしゃるオピニオンリーダーの方々との対談内容をご紹介いたします。

森は命の営みの集合体~多様な個性が豊かさとバランスをもたらす~

<速水林業代表>速水亨(はやみとおる)×<東京電力・永年尾瀬保護活動担当>竹内純子(たけうちすみこ)

今回のゲスト、速水亨さんは、三重県海山町で江戸時代から続く速水林業の9代目。家業を継いで以来、環境と地域社会に貢献する森林管理のあり方を追求し、2000年には国際的な森林認証制度「FSC認証」を日本で初めて取得しました。今回は、森と人との関わりをテーマに、さまざまなお話をおうかがいしました。

<速水林業代表>速水亨(はやみとおる)

<速水林業代表>速水亨(はやみとおる)

1953 年、三重県出身。速水林業代表。76年に慶応大学法学部を卒業し、東京大学農学部研究生を経て、79年より家業の林業に従事する。環境管理に基づく森林経営を実践し、2000年に国際的な森林の認証であるFSC認証(森林管理協議会)を日本で初めて取得。09年には「日本環境経営大賞」環境経営パール大賞を受賞した。

「森林美学」に基づいた森づくり

竹内
農林水産省の生物多様性戦略検討会でご一緒させていただき、速水さんの森にうかがうのが憧れだったんです。これほど気持ちのいい森だとは。正直、想像以上でした。
速水
ありがとうございます。人工林というと、単一樹種しかなくて、手入れの不足した真っ暗な森林をイメージする方が多いんです。人工林の豊かさをいくら言葉にしてみても、なかなかわかってくださらないんです。でも、人工林は、人間がどう関わるかによってものすごく変わります。その関わり方は、ちょっとでいいんです。例えば、うちでは人工林の中に自然と生えてきた広葉樹をあえて伐らずに残します。そうすると、森の生物多様性はぐっと豊かになるんです。
竹内
ちょっとした工夫で、森の姿を豊かにも、貧しくもできるんですね。それがほんとにオドロキでした。
速水
なぜその森がいいのかをちゃんと説明できることも大事なんだけど、黙って見ているだけでも「きれいだ」と感じられる雰囲気が大事だと僕は思います。
竹内
速水さんは洋服や持ち物からしても、「美意識の人」だと思っていました(笑)。
速水
アルフレート・メーラーという昔のドイツの林学者は、「最も美しい森林は、最も収穫高き森林だ」と語っています。彼らの思想のなかには常に「森林美学」というものが存在していたんですね。そこに共鳴しました。もちろんビジネスだから、冷静に計算高くやっていかなきゃいけないんだけど、そこから少し離れたところで、自分の作品をつくっていくという気持ちは常にあります。

森林の持つ多様な機能に対価を

切り株も生きている!森の不思議を学ぶ。
竹内
こうやって歩いてみると、森にはいろいろな機能があることを体感できますよね。
速水
この山からは、たぶん土粒の一滴も流していません。
竹内
国民が森林に期待する機能についてアンケートをとったところ、1980年は、1位が災害防止、2位が木材生産、3位が水源涵養でした。それが2003年には、1位が災害防止、2位が地球温暖化防止、3位が水源涵養になっていて、木材生産は下から2番目の8位だったそうですね。私たちは森林に対して多大なる期待をして、実際にその恩恵を受けているのに、対価を払っているのは木材生産に対してだけなんですよね。それを考えると、なんだか申し訳なくて。
速水
ぜひお支払いをお願いします(笑)。日本学術会議の試算によると、森林の多様な機能を金額に換算すると1年間に70兆円になるそうですが、木材生産の収入だけを見ると3000億に過ぎないんです。もちろん、森林の機能にも、森林が存在するだけで発揮できる機能と、適切な管理をするから発揮できる機能があるはずです。管理されたことで発揮できる機能については、林業家がちゃんと対価を享受できるようにしていくことを真剣に考えなきゃいけないと思います。たとえば私が「生物多様性が高く、みんなが歩いて気持ちのいい森をつくります」という計画を立てて国民と契約を交わすとします。で、国民の代替者として政府が契約に対する支払いをし、その森林の出来具合をチェックしていく。今までとはまったく違うそんな発想があると、森林管理や林業経営が、木材生産だけではなくて、森林の多面的な機能を発揮するための職業になる可能性があるわけです。

様々なステージの森が互いの個性を補完しあう

森林のCO2 吸収量と生物多様性などを多面的に評価する「フォレストック認定」の認定書を手に。
速水さんに尾瀬戸倉山林の状況を見てもらった。
竹内
そういうバックグラウンドがあって、フォレストック(日本林業経営者協会が創設した「森林のCO2吸収・生物多様性認定」)という制度を立ち上げたのですね。
速水
森林の多面的な機能を「見える化」したいという思いがずっとあったんです。近年、地球温暖化の問題が顕在化してきて、森林がCO2吸収源としてにわかに脚光を浴びるようになりましたよね。でもずっと森を見てきた私たちからすると、すごく一面的な評価でしかないので、ちょっと疑問がありました。
竹内
確かにそうですね。今年の8月5日、東京電力の尾瀬戸倉山林が国内第一号のフォレストック認定を頂きましたけど、審査の過程で、森には多様な機能があり、だから多様なシーンの森が必要なんだと言うことがわかってきました。若い人工林は、CO2吸収能力は高いかもしれませんが、生物多様性は若干点数が低かったりします。逆に成熟した天然林は、CO2はあまり吸収しない代わりに豊かな生物多様性があります。森林をCO2吸収源としてだけ評価するというのは、算数だけできて、国語も理科も社会も0点の森を作るみたいなものですよね(笑)。
速水
明るい森は生物多様性が豊か、といっても、暗い森にしか棲めない動植物もいるんです。ある一定の広さの森林の中に、樹齢的にさまざまなステージがあったり、いろんな条件の違う場所があって、それぞれが補完しあっていることが大事だと思うんですよ。原生林から人工林まで含めて、そういう安定した状態をどうつくっていくかです。尾瀬戸倉山林は非常に魅力的ですね。
竹内
人間社会も同じかもしれませんね。いろんな人がいて、いろんな意見があるから、バランスのとれた社会になる。だからこの世はおもしろい(笑)
速水
その通り!微生物から大木まで、あらゆる命の営みがある。だから”森は気持ちいい!”ですね。

2009年9月15日更新

ストップ!地球温暖化

枝廣淳子 環境ジャーナリスト、翻訳家。

2009年6月15日更新

さかなクンに森と魚の関係を聞く

さかなクン お魚らいふ・コーディネーター。

渡り鳥は世界の自然をつなぐ

樋口広芳 東京大学農学部生物多様性学科研究室教授。

2009年3月19日更新

知識から行動への変革

東田研 東田テクノロジーリサーチ所長。

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