廃炉への道のり

福島第一原子力発電所の事故から10年、私たちは可能な限りリスクを低減しながら廃炉に向けた取組みを進めてまいりました。

汚染水対策においては、汚染水の発生量を大幅に低減でき、使用済燃料プールからの燃料取り出しは、2014年に4号機、2021年2月には3号機での取り出しが完了しました。また、作業環境の改善については、発電所構内の約96%のエリアで、簡易マスクと一般作業服で作業ができるレベルにまでなりました。ここに至るまで、国内外から非常に多くの技術的、人的なご支援をいただいていること、心から感謝を申し上げます。

これからの廃炉事業には、燃料デブリの取り出しをはじめとした、これまでに前例のない難易度の高い作業や工事が数多く控えています。これまでに得た知識、経験や社内外の知見を最大限活用して、あらゆる不測の事態を想定し、廃炉措置に向け専念してまいります。

以下では、事故から取組んでまいりました様々な活動をご紹介させていただきます。

どのようなことが起こったか

2011年3月11日、三陸沖の海底を震源とする地震が発生。運転中であった1~3号機は安全に停止しました。4~6号機は定期検査中のため稼働していませんでした。

地震の影響で福島第一原子力発電所は全ての外部電源が喪失しましたが、非常用ディーゼル発電機が自動起動したことで発電所内の電源は確保され、原子炉は冷却されていました。

その後、地震発生から約50分後に大きな津波の直撃を受けました。原子炉が設置されている敷地のほぼ全域が津波によって水浸しになりました。内部まで浸水し、電源設備が使えなくなったため、原子炉への注水や状態監視などの安全上重要な機能を失いました。

注水による冷却ができなくなったことで、1~3号機は圧力容器内の水が蒸発しました。水面から露出した燃料棒と水蒸気の化学反応により発生した水素が原子炉建屋に蓄積し、1号機と3号機は爆発に至りました。

4号機は、3号機格納容器内の圧力が高まり、それを外部に排出した際に排気筒合流部から流入した水素が蓄積され、爆発に至ったものと推定しています。

初期対応


事故の収束・安定化に向けた取組み

事故後は、あらゆる手段を講じて原子炉への注水を試みました。また、格納容器内の圧力を低下させる「格納容器ベント」という操作を行うなど、原子炉の安定化に向けた取組みが始まりました。

2011年3月20日には外部電源が復旧し、原子炉を冷却できる体制が整いました。

廃炉に向けた取組み

2011年4月、「福島第一原子力発電所・事故の収束に向けた道筋」を公表し、「I.冷却」「II.抑制」「III.モニタリング・除染」の3つの分野とした上で取組みました。

I.冷却:
 原子炉の冷却/使用済燃料プールの冷却
II.抑制:
 放射性物質で汚染された水(滞留水)の閉じ込め、保管・処理・再利用/大気・土壌での放射性物質の抑制
III.モニタリング・除染:
 避難指示/計画的避難/緊急時避難準備区域の放射線量の測定・低減・公表

取組みにより、2011年12月には全ての原子炉の温度が冷温停止(100℃以下)の状態になりました。また、敷地境界における被ばく線量が十分低い状態を維持することができるようになりました。

廃炉への道筋


中長期ロードマップを策定

2011年12月、国は「東京電力ホールディングス(株)福島第一原子力発電所1~4号機の廃止措置等に向けた中長期ロードマップ」を策定し、これに基づき廃炉作業を進めています。

翌2012年4月には1~4号機、2014年1月には5号機及び6号機の廃炉を決定しました。
なお、「中長期ロードマップ」は、廃炉作業の進展に伴って明らかになってきた現場の状況などを踏まえて、継続的な見直しが行われています。(至近の改訂は、2019年12月)

当社は、中長期ロードマップや原子力規制委員会のリスクマップに掲げられた目標を達成するための廃炉全体の主要な作業プロセスを示すために「廃炉中長期実行プラン2020」を作成しました。

廃炉の主な取組み

廃炉は、汚染水対策や燃料取り出し、燃料デブリの取り出し、廃棄物対策などに取組みながら、作業・労働環境の改善や研究開発、安全性向上にも取組んでいます。
それぞれの取組みをご覧ください。

使用済燃料プールからの燃料取り出し


概要

使用済燃料プールには、発電に使用された使用済燃料等が貯蔵されています。この使用済燃料等によるリスクを下げるため、事故を起こした原子炉建屋からの燃料取り出し作業やその準備を進めています。

それでは1~4号機の状況をご覧ください。

4号機は取り出しを完了

2013年11月より使用済燃料プールからの燃料取り出し作業を開始し、2014年12月に全1,535体の取り出しが完了しました。

1号機は大型カバー設置に向け工事中

建屋全体を大型カバーで覆い、カバー内でガレキ撤去用天井クレーンや解体重機を用いて遠隔操作でガレキ撤去を行う計画です。

ガレキ撤去後、オペレーティングフロアの除染、遮へいを行い、燃料を取り出すための設備(燃料取扱機、クレーン)を設置します。

2号機は取り出し用構台を
建設中

2号機は壁の一部が開き、水素が放出されたことで、原子炉建屋の爆発には至りませんでした。使用済燃料プールからの燃料取り出しについては、周辺地域の安全確保を第一に、建屋上部を解体する計画を見直しました。

見直し後は、建屋南側に燃料搬出のための「燃料取り出し用構台(構台・前室)」を建設し、建屋とつないで燃料取り出し設備をオペレーティングフロアへ入れ、遠隔操作で燃料を取り出します。

現在は、原子炉建屋南側に「燃料取り出し用構台(構台・前室)」の建設について検討・工事を進めています。

3号機は取り出しを完了

水素爆発を起こした3号機は、原子炉建屋上部のガレキ撤去等が完了し、2018年2月に燃料取り出し用カバーの設置が完了しました。

その後、準備が整ったため、2019年4月から使用済燃料プールからの燃料取り出しを開始しました。

2021年2月に全566体の取り出しが完了しました。

燃料デブリの取り出し


燃料デブリとは?

事故当時、1〜3号機は稼働中だったため原子炉格納容器内の炉心に核燃料が格納されていました。

事故発生後、非常用を含む電源が失われたことで原子炉を冷やすことができなくなり、燃料が過熱、燃料等が溶融しました。その溶融した燃料が冷えて固まったものを燃料デブリと言います。

現在は格納容器内部の状態を確認し、燃料デブリを取り出すため様々な調査を進めています。

燃料デブリの調査

これまでにミュオンという透過力の強い宇宙線を利用した測定やロボット等による原子炉格納容器の内部調査を行ってきました。

原子炉格納容器内部調査では1号機はペデスタル外底部や配管等に堆積物を確認。一方、2号機では小石状の堆積物が動かせることを確認しました。接触調査で得られた情報は、今後の内部調査や燃料デブリ取り出し方法の検討(取り出し箇所、装置の設計等)に活用していきます。また、3号機では原子炉本体を支える基礎であるペデスタル内底部の複数箇所に堆積物を確認しました。

汚染水対策


汚染水とは?

燃料デブリを冷やすための水が、燃料デブリに触れ、高い濃度の放射線物質を含んだ汚染水になります。さらに地下水や雨水が原子炉建屋・タービン建屋といった建物の中に入り込み、汚染水と混じり合うことで、新たな汚染水が発生します。

3つの基本方針

汚染水対策として
1.汚染源を取り除く
2.汚染源に水を近づけない
3.汚染水を漏らさない
という3つの基本方針のもと、対策を進めています。


1.汚染源を取り除く(汚染水処理のしくみ)

汚染水に含まれる放射性物質によるリスクを低減させるため、まずは、セシウム吸着装置を使い、汚染水に含まれる放射性物質の大部分を占めるセシウムとストロンチウムを重点的に取り除きます。その後、多核種除去設備(ALPS)で処理することによって、トリチウム以外の大部分の放射性物質を取り除くことができます。

ALPSでは、薬液による沈殿処理や吸着材による吸着など、化学的・物理的性質を利用した処理方法で、62種類の放射性物質を告示濃度限度未満まで取り除くことができ、汚染水を浄化します。

2.汚染源に水を近づけない(汚染水の減少対策)

雨水が地面にしみ込むことを防ぐフェーシングや、建屋周辺の井戸からの地下水くみ上げ、さらには、建屋を囲むように土の中に氷の壁をつくり、建屋に流れ込む地下水の量を減らしています。破損した建屋等は、雨水の流入対策を進めています。

海へと向かう地下水は、沿岸につくった鋼鉄製の壁でせき止め、溢れることがないよう、海際の井戸でくみ上げることで、港湾内の環境は、より安全な状態を保てるようになっています。

3.汚染水を漏らさない(汚染水を漏らさない対策)

汚染水は段階的に放射性物質を取り除き、リスク低減を行った上で、敷地内のタンクに保管しています。

対策の例として、汚染の可能性がある地下水が海洋に流出し、環境に影響を与えることがないように、海側遮水壁を設置することで、地下水が海洋へ流出することを防いだり、地下水ドレンでは護岸の井戸が海側遮水壁でせき止めた地下水をくみ上げます。くみ上げた地下水は、浄化処理を行い、排水基準を満たしていることを確認後に、海洋へ排水することで、原子炉建屋等に近づく地下水の量を減少させます。

汚染水対策の効果

汚染源を取り除く対策
タンクに貯蔵していた高濃度の汚染水の浄化処理を2015年5月に完了(一部を除く)し、リスクを低減しています。


汚染源を近づけない対策
汚染水の発生量は、対策前の約540㎥/日(2014年5月)から、約180㎥/日(2019年度平均)、約140㎥/日(2020年)まで減らすことができています。


汚染水を漏らさない対策
発電所港湾内外の放射性物質の濃度は、徐々に低下し、事故直後と比較して100万分の1未満(セシウム)まで低減しています。更に処理水を保管するタンクについて、フランジ型タンクから溶接型タンクへの移送を完了し、漏えいリスクが低減され、より安定した管理ができるようになりました。

廃棄物対策


廃棄物の現状

廃炉作業に伴い発生する廃棄物は、種類ごとに分別して、発電所構内で安全に保管しています。廃棄物にはガレキのほか、廃炉作業で使用した手袋、マスクや防護服などがあります。除染のために取り除かれた土や伐採した木も廃棄物として分別して保管しています。

2016年3月に固体廃棄物の保管管理計画を作成しています。保管管理計画は、当面10年程度に発生すると想定される固体廃棄物を念頭に、保管施設や減容施設を導入して屋外での一時保管を解消する計画や継続的なモニタリングにより適正に固体廃棄物を保管していく計画を示したものです。保管管理計画は、廃炉作業の進捗等を踏まえて1年に一度、発生予測を見直しながら更新しています。

労働環境の改善


除染作業の効果

事故当時はすべてのエリアで、防護服と全面マスクを着用して作業していました。

その後、地面にモルタルを吹き付けるフェーシングという処理によって除染作業を進めてきたことにより、敷地内の放射線量を下げると同時に、放射性物質の舞い上がりを防ぐことができました。また、これにより衣服が汚染することがなくなり、一般作業服で作業できるようになりました。

発電所構内は、2016年3月からGreen Zone、Yellow Zone、Red Zoneの3つに区分けし、管理しています。現在では粉じんの飛散防止対策や放射線量を下げることにより簡易マスクと一般作業服で作業できるGreen Zoneが拡大しました。2019年には96%まで広がっています。

施設の拡充

より働きやすい環境を目指して、現場で働く方々からのご意見をもとに、これまで様々な施設を開設しました。

2015年5月、約1,200人を収容できる大型休憩所が完成。快適な空間での休憩・ミーティングができるようになったほか、食堂で温かい食事が食べられるようになり、コンビニエンスストアやシャワールームも利用できまるようになりました。

そして、2016年10月に新事務本館での業務がスタート。より落ち着いた環境で社員が業務を行えるようになりました。新事務本館のすぐ隣にある協力企業棟に入棟いただいた協力企業の皆さまと常に近い距離で業務できるようになり、現場に密着した体制が整いました。

万が一の事故に備えて、24時間体制で救急医療を行える環境を備えており、外部医療施設へ速やかに搬送が必要な場合に備えて、ヘリポートも整備しています。

安全性向上への取組み


1/2号機排気筒の解体作業

1/2号機用の排気筒は、耐震性は確保されていますが、倒壊のリスクを低減するため、上部約半分の解体を地元企業とともに進め、2020年5月に解体作業が完了しました。
この解体作業では作業員の被ばくを抑えるため、遠隔操作により作業を実施しました。

廃炉に向けて


事故発生から廃炉へ向けた10年間で様々な対策を行ってきました。今後、長期にわたる廃炉の取組みにあたり、解決すべき課題が多くあります。

使用済燃料プールからの燃料の取り出し

1号機は、ガレキ撤去時のダスト飛散を抑制するため、2023年頃までに大型カバーを設置します。その後、2027~2028年度に燃料の取り出しを開始する予定です。2号機は、2024~2026年度の取り出し開始に向け、オペレーティングフロア内の線量低減に向けた効果的な除染・遮へい計画の検討及び実施が課題となっています。最終的に2031年内に1~6号機の燃料取り出しを目指します。

燃料デブリの取り出し

燃料デブリの取り出しについては、世界でも例がない挑戦となります。2号機からの試験的な取り出しに向け、研究開発とその成果を現場適用するためのエンジニアリングを進め、燃料デブリの取出装置の製作・設置を進めていきます。

汚染水対策

汚染水については、原子炉建屋滞留水を2022年度~2024年度には2020年末の半分程度に低減し、2025年内に汚染水発生量を100㎥/日以下に抑制、また建屋内滞留水の処理を2020年内に完了しました。そのために建屋周辺の地下水を低位で安定的に管理し、雨水浸透防止対策として、陸側遮水壁内側(海側、山側)の敷地舗装及び建屋屋根破損部の補修を実施します。
発電所で発生する汚染水を浄化処理し、発電所構内のタンクで保管している水(トリチウムを含む)の取扱いについては、国から示される方針を踏まえ、丁寧なプロセスを踏みながら適切に対応してまいります。なお、当社は、多核種除去設備等の処理水の処分にあたり、環境へ放出する場合は、その前の段階でもう一度浄化処理(二次処理)を行うことによって、トリチウム以外の放射性物質の量を可能な限り低減し、国の基準値を満たすようにする方針です。

廃棄物対策

廃棄物については、処理・処分方策とその安全性に関する技術的な見通しを示すことができるよう、保管・管理時の安全確保に係る対処方針や性状把握に有用な測定データを早期に提示します。2028年を目処にガレキ等の屋外一時保管を解消する計画です。

廃炉は30年から40年にわたる取組みです。引き続き作業環境の改善を進めるとともに、ロボットや遠隔操作などの技術開発にも積極的に取組み、皆さまのご理解とご協力のもと、福島第一原子力発電所の廃炉を安全・着実にやり遂げてまいります。